近所のコンビニの飲料冷蔵庫を見ると、店主が別に注文していないのに、よく売れる飲み物がなくなりかける頃には決まって補充されていることがあります。大型スーパーのお菓子売り場や工場横の部品倉庫でも、似たようなことが起きています。商品を買う側が注文書を書く前に、商品を納める側が先に在庫を確認し、自ら補充しているのです。このように在庫を補充する判断を供給者に任せる方式を、物流では「ベンダー管理在庫(Vendor-Managed Inventory)」、略してVMIと呼びます。
ベンダー管理在庫とは、簡単に言えば「購買者の販売量と在庫情報を供給者が一緒に見ながら、いつどれだけ補充するかを供給者が判断し責任を持つ在庫運営方式」を意味します。注文を待ってから動くのではなく、データを見て先に動くことが核心です。
本稿では、ベンダー管理在庫が生まれた背景から、実際の仕組み、購買者と供給者が得る利点、そして導入時に気をつけるべき点まで順に見ていきます。
注文書の代わりにデータで補充する在庫
ベンダー管理在庫はどのように始まったのか?

ベンダー管理在庫が広く知られるきっかけとなったのは、1980年代のアメリカの日用品メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)と小売企業ウォルマート(Walmart)の協力でした。
(1)注文なしで紙おむつを送る
1980年頃、プロクター・アンド・ギャンブルはアメリカ・セントルイスのある食料品チェーンと手を組み、店舗側が注文しなくても紙おむつを自ら倉庫へ送る連続補充(Continuous Replenishment)を試しました。この方式は1988年にウォルマートにも適用されました。
(2)競争相手から協力者へ
1985年頃から両社は、互いに値引きを迫って張り合う関係をやめ、電子データ交換(Electronic Data Interchange)で販売と在庫の情報を共有し始めました。その結果、期日どおりに届く納品が大きく増え、在庫の回転も速くなったと言われています。その後、多くの食品・日用品メーカーやヨーロッパの製造企業もこの方式に続きました。
ベンダー管理在庫はどのように回っているのか?

ベンダー管理在庫は、情報を共有することから始まり、供給者が補充を決める流れへとつながります。
- 情報共有(Information Sharing):購買者は店舗や倉庫の在庫水準と販売時点情報(Point of Sale)を継続的に供給者へ送ります。
- 補充判断(Replenishment Decision):供給者はこの情報を見て、いつ、どれだけ、どのように送るかを決めます。
- 事前出荷通知(Advance Shipping Notice):供給者は商品を送る際、何が届く予定かを購買者に前もって知らせます。
- 目標管理(Service Level Target):両社は在庫を最低どれだけ維持し、欠品をどこまで減らすかといった目標をあらかじめ取り決め、供給者がその基準を守ります。
実際の現場では、品目ごとに最小在庫と最大在庫を決めておき、在庫が最小ライン近くまで下がると供給者が最大ラインまで補充し直す方式がよく使われます。工場のねじやボルトのような消耗部品の倉庫や病院の医療消耗品の棚のように、よく使われるものの一つひとつ注文するのが面倒な品物で、特に効果が大きくなります。
似ているように見える委託在庫(Consignment Inventory)は、商品が売れるまで所有権を供給者が持つ方式です。ベンダー管理在庫は補充の決定権を渡すものであり、所有権まで必ず渡すわけではない点で異なります。
購買者と供給者が得る利点

ベンダー管理在庫は、片方だけが得をするのではなく、双方の手間を一緒に減らすところに意味があります。
[利点1]購買者は欠品と手間を減らす
購買者は注文書を書いて確認する作業から解放され、よく売れる商品が切れる欠品も減らせます。供給者のほうが商品をよく知っているため、在庫を必要以上に抱え込むことも少なくなります。
[利点2]供給者は需要を先に見る
供給者は大口の注文が突然押し寄せるのを待つのではなく、実際の販売の流れを見ながら生産と配送を計画できます。そのおかげで、サプライチェーンの上流に行くほど注文の変動が膨らむブルウィップ効果(Bullwhip Effect)を和らげ、トラックを満載にして送るなどの方法で輸送費も節約できます。
導入時に気をつけるべき点

ベンダー管理在庫は便利な分、信頼と約束が揺らぐと、かえって対立の種になることもあります。
(1)信頼と情報の質
購買者が送る販売・在庫情報が遅れたり間違っていたりすると、供給者の判断も一緒に狂います。また、供給者が自社の商品をもっと多く押し込みたがることもあるため、目標と責任を契約で明確に定めておくことが重要です。購買者側では、在庫の決定権を渡した後に供給者へ頼りすぎてしまうおそれがあるため、定期的に成果を一緒に点検する場が必要です。
(2)共に計画する段階へ
こうした限界を補うため、1990年代半ばには、供給者と購買者が販売計画や需要予測まで一緒に立てる協働計画・予測・補充(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment)が登場しました。1995年にウォルマートが中心となった試みから始まり、1998年に業界ガイドラインとしてまとめられました。
ベンダー管理在庫は、在庫を誰が持っているかよりも、在庫を誰が最もよく判断できるかを問う方式です。注文書がやり取りされていた場所をデータと信頼が代わりに担えば、棚はより少ない手間で、より安定して満たされます。
自社倉庫の数字を取引先と率直に分かち合うこと、それが共に欠品を減らすサプライチェーンの第一歩です。
