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選んだあとに生まれる錯覚、バークソンのパラドックス(Berkson's Paradox)

おいしいと評判の店は、なぜどれも路地の奥や辺ぴな場所にあるのでしょうか?顔のいい芸能人は演技がいまひとつで、演技のうまい俳優は外見が平凡だという話もよく耳にします。こうした経験が積み重なると、二つの長所はなかなか両立しないという結論に行き着きがちです。ところがこの結論は、世の中ではなく、私たちが見た標本が生み出した錯覚かもしれません。この現象こそが「バークソンのパラドックス(Berkson's Paradox)」です。

バークソンのパラドックスとは、簡単に言えば「ある基準でふるいにかけられた集団だけを見ると、互いに関係のない二つの特性の間に見せかけの負の相関が現れる現象」を意味します。統計学ではバークソン・バイアス(Berkson's Bias)、合流点バイアス(Collider Bias)とも呼ばれ、標本の選び方から生じる選択バイアスの一種です。

この記事では、バークソンのパラドックスが初めて見つかった病院の話から、見せかけの関係が生まれる仕組み、日常の中の事例、そして錯覚を避ける方法までを順に見ていきます。

仮想の切手1000枚からきれいなものか珍しいもの370枚だけを選ぶと、きれいでない切手の中の珍しい割合が10パーセントから100パーセントに変わるバークソンのパラドックス説明図。
バークソンのパラドックス: 選択基準が標本の中の関係を変えうることを示します。数値は本文の仮想例です。概念参考: Westreich (2012), Berkson’s bias, selection bias, and missing data。原文出典

バークソンのパラドックスが生む見せかけの関係

バークソンのパラドックスとは何か?

1940年代の病院の記録室で、白衣に丸眼鏡をかけた統計学者が木の机に向かい、患者カードと書類ばさみの山を調べていて、その後ろに背の高い木製の書類棚が並んでいる様子

この現象は、アメリカのメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)の生物統計学者ジョセフ・バークソン(Joseph Berkson)が、1946年に学術誌『バイオメトリクス・ブレティン(Biometrics Bulletin)』に発表した論文で初めて体系的に指摘しました。彼は物理学と医学、統計学をすべて学んだ研究者で、病院のデータだけで病気の原因を突き止めようとする研究に潜む落とし穴に注目しました。

(1)病院の中だけで見える関係
バークソンが挙げた例は、糖尿病と胆のう炎です。入院患者を集めてみると、糖尿病のない患者は何か別の理由で病院に来たはずなので、胆のう炎のような別の病気を患っている可能性が一般の人より高くなります。その結果、病院の中では二つの病気が互いを避け合っているかのような関係が現れます。外の世界では二つの病気に何の関係もなかったとしてもです。

(2)よく似た名前
同じ現象でも、分野によって呼び名が少しずつ違います。

  • バークソン・バイアス(Berkson's Bias):同じ現象を標本の問題として呼ぶ名前です。
  • 合流点バイアス(Collider Bias):二つの原因がともに影響を与える結果の変数で標本をふるいにかけたときに生じるゆがみです。
  • 内生的選択バイアス(Endogenous Selection Bias):主に社会学や経済学で使われる名前です。

見せかけの負の相関が生まれる仕組み

明るい書斎の大きなテーブルの上に色とりどりの切手が何百枚も散らばり、その横のガラスの陳列ケースには選び抜かれた切手だけがきちんと並べられていて、収集家がピンセットと虫眼鏡を手にしている様子

鍵となるのは「二つのうちどちらか一つでもなければ入れない門」です。二つの特性が互いに独立していても、どちらか一つ以上を備えた人だけを集めると、一方の特性がない人はもう一方の特性を持っている可能性が高くなります。そのため、ふるいにかけられた集団の中では、一方が高いほどもう一方が低く見えます。逆に、二つの特性が実際にはともに動く関係であっても、ふるいにかけられた集団の中では、その関係が弱まったり、まったく消えたりして見えることがあります。

(1)切手1,000枚で考えてみる
ある収集家が切手を1,000枚持っていて、そのうち300枚はきれいで、100枚は珍しく、30枚はその両方に当てはまるとしましょう。全体でも10%、きれいな切手の中でも10%が珍しいので、きれいさと珍しさには関係がありません。ところが、きれいか珍しい切手370枚だけを陳列すると、陳列ケースの中のきれいではない切手70枚はすべて珍しいものになります。陳列ケースだけを見た人は「きれいでないほど珍しい」と思い込んでしまいます。

(2)合流点という名前の意味
「陳列された」という結果には、きれいさと珍しさという二つの原因の矢印がともにぶつかります。このように二つの原因が集まる変数を合流点と呼び、この変数で標本をふるいにかけた瞬間、もともとなかった関係が生まれます。


日常の中のバークソンのパラドックス

夕暮れどき、古い町の狭くひっそりとした路地に温かな明かりが漏れる小さな食堂があり、その前に人々が列を作っていて、路地の先には明るくにぎやかな大通りが見える様子

バークソンのパラドックスは病院の外でもよく現れます。私たちが目にする集団のほとんどが、すでに何らかの基準をくぐり抜けた人や物だからです。

[事例1]顔のいい人はなぜ無礼なのか

アメリカの数学者ジョーダン・エレンバーグ(Jordan Ellenberg)は、デートの相手を例に挙げました。優しさと外見を足した点数が一定の水準を超える人とだけ会うとすれば、あまり優しくない人は外見がより優れていなければ基準を通りません。そのため、会ったことのある人たちの間では「顔のいい人は無礼だ」という印象が生まれますが、世の中全体では二つの特性に何の関係もないかもしれません。

[事例2]新型コロナ研究への警告

2020年、研究者たちは新型コロナウイルス感染症の研究でもこの落とし穴に警告を発しました。検査を受けた人や入院した人だけを集めて分析すると、検査や入院に影響する多くの要因が互いに絡み合い、実際とは異なる危険因子が現れることがあるという指摘でした。標本がどのように集められたかが結論を変えうることを示した事例です。

[事例3]辺ぴな路地の名店

食堂が生き残るには、味がいいか場所がいいか、どちらか一つは備えていなければなりません。立地のいい食堂は味が平凡でも行き交う客のおかげで持ちこたえられますが、辺ぴな路地の食堂は味が優れていなければ店を閉めることになります。そのため、今日営業している食堂だけを見て回ると「辺ぴな場所ほどおいしい」という関係が見えてきます。すでに店を閉めた食堂が標本から抜け落ちているからです。


バークソンのパラドックスを避ける方法

明るいオフィスで、研究者が色とりどりの小さな木片が散らばったテーブルの上に大きなふるいを掲げていて、一部の木片は下に落ち、一部はふるいに残っている様子

この錯覚を避けるには、結論より先に、標本が入ってきた門を確かめなければなりません。よく似た落とし穴である生存者バイアスが生き残ったものだけを見る問題だとすれば、バークソンのパラドックスはふるいにかけられたもの同士の関係を読み違える問題です。

(1)まずふるいについて尋ねる
このデータが誰を、どんな基準で集めたのかを確かめます。入院や合格、知名度のように、二つの特性がともに影響を与える条件があるなら、見せかけの関係を疑うべきです。

(2)ふるいにかけられていない集団と比べる
可能であれば、一般の人口のように基準を通っていない集団のデータと比べます。二つの集団で関係が異なって現れるなら、標本を選ぶ過程が生んだ錯覚である可能性が高いでしょう。


バークソンのパラドックスは、私たちが見ている世界がすでに一度ふるいにかけられた世界であることを気づかせてくれます。味と立地、外見と性格のように互いに食い違って見える関係も、標本の門を開けて見直せば、まったく違う姿をしているかもしれません。

目の前の関係よりも、その集団がどのように集められたのかをまず問うこと、それが数字にだまされない統計的思考の第一歩です。