本文へ移動
雑学書庫好奇心が集まる場所
日本語

二十三人いれば十分、誕生日のパラドックス(Birthday Paradox)

新学期の初日、三十人ほどのクラスで担任の先生がこう尋ねます。「このクラスに誕生日が同じ人はいるでしょうか?」1年は365日もあるので、三十人程度では重なりにくいと思いがちです。ところが実際に計算すると、誕生日が同じ二人がいる確率は約70%にもなります。

直感と計算がこれほど大きく食い違う現象を「誕生日のパラドックス(Birthday Paradox)」と呼びます。誕生日のパラドックスとは、簡単にいえば「数十人集まるだけでも、誕生日が同じ人がいる確率は思ったよりずっと高い」という事実を意味します。論理的な矛盾があるわけではありませんが、初めて聞くと間違っているように感じられるため、パラドックスという名前が付けられました。

本資料では、誕生日のパラドックスとは何かということから、確率を計算する原理、私たちがなぜこのような思い違いをするのか、そしてこの原理が情報セキュリティなどの現実の場面でどのように使われているのかまで、順に見ていきます。


誕生日のパラドックスの原理と活用

23人で半々になる確率

明るい朝日が差し込む教室で、机ごとにリボンの付いた小さなプレゼントの箱とカップケーキが置かれている様子

誕生日のパラドックスは、通常いくつかの仮定を置いて計算します。計算を単純にするためです。

  • 1年の長さ(Days in a Year):1年は365日とし、4年に一度訪れる2月29日は除きます。
  • 一様分布(Uniform Distribution):どの日に生まれる可能性も同じと考えます。
  • 独立性(Independence):ある人の誕生日はほかの人の誕生日に影響しないと考え、双子はいないと仮定します。

この条件で、誕生日が同じ人が少なくとも一組いる確率は、10人のときには約11.7%で、まだ珍しいことです。しかし、23人になると約50.7%で初めて半分を超え、30人なら約70.6%、50人なら約97%、70人なら約99.9%まで上がります。人数は少しずつ増えるのに、確率は急激に上昇するわけです。

一方、誕生日が必ず重なるには366人が必要です。日付は365個しかないので、366人目は誰かと重ならざるを得ないからです。ところが、1年365日の15分の1にも満たない23人が集まるだけで確率が半分を超えることが、この現象をパラドックスのように見せています。

実際には、特定の季節や曜日に生まれる赤ちゃんが多いため、誕生日は均等に分布していません。このように偏りがあると、重なる確率はむしろ少し高くなりますが、その差は大きくないため、実際の出生データで調べても、半分を超える基準はやはり23人です。


確率を計算する二つの鍵

明るい木製のテーブルの上で、何枚もの無地の色紙のカードが二枚ずつ赤い糸でつながれ、密な網を形作っている様子

誕生日のパラドックスを理解する鍵は二つあります。

(1)反対の場合から数える
「誰かの誕生日が重なる確率」を直接求めようとすると、場合の数が多すぎます。そこで「全員の誕生日が異なる確率」を先に求め、1から引く方法を使います。二人目が最初の人と異なる確率は364/365で、三人目が前の二人のどちらとも異なる確率は363/365です。このように23人目まで掛け合わせると、全員が異なる確率は約49.3%となり、残りの約50.7%が誰かの誕生日が重なる確率です。

(2)人ではなく組を数える
23人が集まると、二人ずつの組を作る方法は23×22÷2、つまり253通りあります。一組の誕生日が重なる確率は365分の1と小さいものの、253回も機会があれば、そのうち一度は一致する可能性が高くなります。人数が増えると、組の数はそれよりもずっと速く増えます。人数が2倍になると組の数はおよそ4倍になるため、重なる機会もそれだけ急速に増えるのです。

誕生日のパラドックスのインフォグラフィック。自分を含む23人のうち、自分と残りの22人を比べると22組で、自分と誕生日が同じ人がいる確率は約5.9%である。23人全体で二人ずつを比べると、23×22÷2で253組となり、誕生日が同じ人が少なくとも一組いる確率は約50.7%である。365日それぞれの誕生日が同じ確率で現れ、互いに独立であると仮定し、閏日は除く。
誕生日のパラドックスは、「自分と誕生日が同じ人」ではなく、「全体の中で誕生日が同じ二人」を見つける問題である。自分を含む23人で比較できるすべての組は253組で、少なくとも一組の誕生日が同じである確率は約50.7%である。誕生日は365日に均等に分布し、互いに独立であると仮定し、閏日は除いた。出典: Wolfram MathWorld, Birthday Problem。制作:雑学書庫。

一人ずつ順番に部屋に入ってくると考えると、誕生日が同じ最初の組が現れるまでに、平均で約25人が入る必要があります。これも365という数に比べると、とても小さな数です。


直感が確率を捉え損ねる理由

晴れた午後、競技場の芝生に並ぶサッカー選手たちの中で、二人の選手が誕生日ケーキを持って笑っている様子

この現象が驚きに感じられるのは、質問を違う意味で受け取ってしまうからです。多くの人は「誰かが自分と同じ誕生日である確率」を思い浮かべます。この確率は、自分を含む23人では約6%にとどまり、50%を超えるには自分を含めて254人、つまりほかの人が253人必要です。しかし、誕生日のパラドックスが問うのは、自分を含む集団の中の「任意の二人」の誕生日が同じである確率です。

実際の事例もあります。2014年のブラジルワールドカップでは、32か国がすべて23人ずつの選手名簿を提出しました。英国BBCの分析によると、その半数に当たる16チームに誕生日が同じ選手がおり、韓国を含む5チームには、そのような組が二組ずつありました。23人なら半々になるという計算と、驚くほどよく一致する結果です。

この問題は、1920年代に英国の数学者ハロルド・ダヴェンポート(Harold Davenport)が最初に着想したとされ、1939年にリヒャルト・フォン・ミーゼス(Richard von Mises)が初めて論文として発表しました。


情報セキュリティに潜む誕生日のパラドックス

明るく整ったサーバールームの白いサーバーラックと、手前の机の上に置かれた金属製の南京錠

誕生日のパラドックスは、教室の外でさらに重要な役割を果たします。その代表例が、どれほど長いデータでも決まった長さの短い値に変換するハッシュ関数(Hash Function)です。

  • ハッシュ衝突(Hash Collision):異なる二つのデータが同じハッシュ値を持つことで、誕生日が同じ二人と同じ状況です。
  • 誕生日攻撃(Birthday Attack):誕生日のパラドックスの原理を利用して衝突を見つける攻撃です。出力がnビットのハッシュなら、2のn乗回ではなく、およそ2の(n÷2)乗回ほど試すだけで、衝突を見つける確率が半分程度になります。
  • セキュリティ設計(Security Design):そのため、衝突への耐性が求められるハッシュ関数は、出力の長さに十分な余裕を持たせて、このような攻撃に備えます。

データを整理するハッシュテーブルでも、格納する項目が増えれば何度かの衝突は避けられないと考え、最初から対策を組み込んで設計します。


誕生日のパラドックスは、私たちの直感が「自分一人」を基準に考えることに慣れていて、無数の組が生み出す機会をうまく捉えられないことを示しています。偶然に見える出来事も、よく調べてみると、思ったより頻繁に起こり得るのです。

驚くような偶然に出会ったとき、改めて場合の数を数えてみること。それが、確率を正しく読み解くための第一歩です。