図書館の案内カウンターに一人の生徒がやって来て、「恐竜の本はどこですか?」と尋ねます。司書が恐竜図鑑の並ぶ書架を教えれば会話はすぐに終わりますが、生徒は首をかしげたまま帰ってしまうかもしれません。実は、その生徒に必要だったのは図鑑ではなく、恐竜がなぜ絶滅したのかを発表するための資料だった可能性があるからです。最初に口にした質問と本当に知りたいことの間には、思っている以上に大きな隔たりがあります。
レファレンス・インタビュー(Reference Interview)とは、やさしく言えば「司書が利用者と会話しながら、最初に受けた質問を整理し、その人が本当に必要としている情報を探して結びつける過程」のことです。図書館のレファレンスサービス、つまり利用者の質問に答え、資料探しを手伝う仕事の中心にある対話の技術です。
本記事では、レファレンス・インタビューが必要な理由から、質問が形づくられる四つの段階、面談の流れと質問の技法、そして良い面談を見極める基準まで、順に見ていきます。
質問の向こうにある必要を探す対話
レファレンス・インタビューが必要な理由

人は図書館に来ても、自分の求めるものを最初から正確に言葉にできることはまれです。
(1)広すぎる質問、狭すぎる質問
「歴史の本はありますか?」のように漠然と尋ねることもあれば、反対に特定の一冊をピンポイントで探すこともあります。しかし、その本が本当に必要な情報を含んでいるかどうかは、利用者自身にもよく分からないことが多いものです。
(2)事情を打ち明けにくい気持ち
病気、法律の問題、お金の問題など、私的なことであるほど、本当の目的を隠して遠回しに尋ねがちです。尋ねること自体を恥ずかしく思う人も少なくありません。
(3)図書館のしくみを知らない利用者
利用者は、図書館にどんな資料がどう整理されているかを知らないため、ありそうな資料の名前に質問を言い換えることがよくあります。そのため、表に出た質問だけを見て答えると、見当違いの資料を渡してしまいやすくなります。
こうした理由から、司書は最初の質問をそのまま書き留めるのではなく、いくつか言葉を交わして質問の背景を探ります。短い会話を少し重ねるだけで、無駄足は大きく減ります。
テイラーの四段階の質問

アメリカの情報学者ロバート・テイラー(Robert S. Taylor)は、1968年の論文で、質問は頭の中から言葉になるまでに四つの段階を経ると説明しました。
- 本能的要求(Visceral Need):何かが足りないという漠然とした感覚で、まだ言葉にしにくい状態です。
- 意識的要求(Conscious Need):頭の中では分かっているものの、まとまりなく曖昧にしか説明できない状態です。
- 形式化された要求(Formalized Need):何が知りたいのかを、はっきりした文章で言える状態です。
- 妥協された要求(Compromised Need):図書館にありそうな資料に合わせて、質問を言い直した状態です。
図書館のカウンターに最初に届く質問は、たいてい最後の段階である妥協された要求です。だから司書は、会話を通じてその下に隠れた要求までさかのぼらなければなりません。先ほどの生徒が「恐竜の本」と言ったのも、発表の準備という形式化された要求を、図書館にありそうな資料の名前に言い換えた結果かもしれません。テイラーはそのために、主題、目的と動機、利用者の特性、資料の整理方法との関係、期待する答えの形という五つのフィルターを示しました。

面談の流れと質問の技法

レファレンス・インタビューは、おおむね決まった流れに沿って進みますが、必要なら前の段階に戻ってもう一度尋ねることもあります。
迎えて聞く
まず利用者を温かく迎え、目を合わせて最後まで聞きます。利用者が言ったことを整理して返せば、司書が正しく理解できているかを一緒に確かめられます。
オープンな質問と中立的な質問
「どんな内容が気になりますか?」のように答えが決まっていないオープンな質問は、利用者が自分の言葉で事情を語れるようにします。1986年にはブレンダ・ダーヴィン(Brenda Dervin)とパトリシア・デュードニー(Patricia Dewdney)が、さらに一歩進めて、状況や行き詰まっている点、情報の使い道を尋ねる中立的な質問(Neutral Questioning)を提案しました。たとえば「その資料で何をなさりたいのですか?」と尋ねるような方法です。
確認して締めくくる
質問がはっきりしたら資料を探して手渡し、最後に「お探しの内容はこちらで合っていますか?」と尋ね返します。この確認を省いてしまうことが、レファレンス・インタビューで最もよくある失敗とされています。
良い面談を見極める基準

レファレンス・インタビューがうまくいったかどうかは、正解を答えられたかどうかだけでは判断しません。
(1)55パーセント・ルール
研究者が普通の利用者になりすまして質問する非介入型評価(Unobtrusive Testing)の結果を集めたところ、正しい答えを得られたのは半分ちょっとにとどまりました。1986年にピーター・ハーノン(Peter Hernon)とチャールズ・マクルーア(Charles McClure)はこれを「55パーセント・ルール」と呼び、この結果は面談技術の大切さが知られるきっかけになりました。ただし、この数字を一般化しすぎているという批判も出ています。
(2)また来たいと思えるか
正解かどうかより、利用者が同じ司書にまた尋ねたいと思うかを大事な物差しとみる見方もあります。親切な態度と最後まで確認する姿勢が、この気持ちを大きく左右します。
(3)画面越しの面談
今日では、チャットやメール、ビデオ通話で質問を受けるデジタル・レファレンスサービスも一般的です。表情や身ぶりが見えない分、文章でいっそう丁寧に聞き返し、確認する技術が求められます。
レファレンス・インタビューとは、本の場所を教えることではなく、利用者自身もまだ整理できていない疑問を一緒にほどいていくことです。検索窓が何にでも答えてくれる時代になっても、質問そのものを整える対話の価値は変わりません。
最初に聞いた質問で立ち止まらず、その人が本当に知りたいことを最後まで尋ねること。それが良い情報サービスの第一歩です。