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重さの違う双子の原子、同位体(Isotope)

数千年前に枯れた木の一片が、いつ切り倒されたのかを、科学者はどうやって突き止めるのでしょうか。秘密は木の中の炭素原子に隠れています。同じ炭素でも、ほんの少し重い種類が混ざっていて、その一部は一定の速さで消えていくからです。原子の一つひとつに時計が入っているようなものです。

このように同じ元素でありながら重さが互いに異なる原子を「同位体(Isotope)」と呼びます。化学的な性質はほとんど同じですが、原子核の中の中性子の数が違うため、あるものはいつまでも安定して残り、あるものは放射線を出しながら別の元素に変わります。

この記事では、同位体の意味と原子の構造から、安定同位体と放射性同位体の違い、炭素で時間を測る方法、そして医療やエネルギー、気候研究で使われる様子まで、順に見ていきます。


重さの違う双子の原子、同位体の仕組みと使い道

同じ場所に置かれた別の原子

明るい実験台の上で、赤い球と灰色の球を固めて作った原子核の模型が小さなガラスのフラスコの横に置かれている様子

原子は中心にある原子核と、その周りを回る電子でできていて、原子核はさらに陽子と中性子に分かれます。元素の種類を決めるのは陽子の数です。陽子が6個なら炭素、8個なら酸素です。

  • 原子番号(Atomic Number):原子核に含まれる陽子の数で、どの元素かを決めます。
  • 質量数(Mass Number):陽子と中性子を足した数で、原子の重さをおおよそ表します。
  • 同位体(Isotope):陽子の数は同じで中性子の数だけが違い、質量数が異なる原子どうしです。

化学反応は主に電子が担うため、電子の数が同じ同位体どうしは、反応の仕方がほとんど同じです。同位体(isotope)という言葉は、ギリシャ語で「同じ」を意味するイソス(isos)と「場所」を意味するトポス(topos)から来ています。周期表で同じマスを占めるという意味です。1913年にイギリスの化学者フレデリック・ソディ(Frederick Soddy)がこの概念を打ち出し、この名前は彼と話をしていたスコットランドの医師で作家のマーガレット・トッド(Margaret Todd)が提案しました。


安定した原子と変わっていく原子

実験室の精密てんびんの横に、同じように見える水の入ったガラス瓶が三つ並び、手袋をはめた手がてんびんを調整している様子

同位体は、原子核が安定しているかどうかによって大きく二つに分かれます。水素がいちばんよい例です。

(1)安定同位体
時間がたっても変わらない同位体です。ふつうの水素には中性子がありませんが、中性子を一つ持つ重水素は2倍の重さがあります。重水素は1931年にアメリカの化学者ハロルド・ユーリー(Harold Urey)が発見しました。炭素もほとんどは炭素12で、約1.1%は中性子が一つ多い炭素13です。

(2)放射性同位体
原子核が不安定なため、放射線を出して別の原子に変わる同位体です。中性子を二つ持つ三重水素(トリチウム)は、約12年たつと半分がヘリウムに変わります。

(3)半減期という時計
放射性同位体が最初の量の半分に減るまでにかかる時間を半減期(Half-life)といいます。半減期は温度や圧力が変わってもほとんど変わらないため、時間を測る正確な時計になります。半減期を1回過ぎると半分が残り、2回過ぎると4分の1、3回過ぎると8分の1が残るというように、一定の割合で減っていきます。


炭素で時間を測る方法

発掘現場で、考古学者がはけと移植ごてを使って古い炭のかけらを慎重に持ち上げている様子

空の高いところでは、宇宙から飛んできた宇宙線(Cosmic Ray)が空気とぶつかり、放射性の炭素である炭素14を絶えず作り出しています。植物は光合成をしながらこの炭素を取り込み、動物は植物を食べて体にため込みます。

息が止まると時計が動き出す

生き物が生きている間は、体の中の炭素14の割合が大気とほぼ同じに保たれます。しかし死んでしまうと新しい炭素は入ってこなくなり、残った炭素14は約5,730年ごとに半分ずつ減っていきます。そのため、残っている量を測れば、その生き物がいつ死んだのかを逆算できます。

考古学を変えた発見

この放射性炭素年代測定法(Radiocarbon Dating)は、1940年代後半にアメリカのシカゴ大学のウィラード・リビー(Willard Libby)が開発し、彼はこの功績で1960年にノーベル化学賞を受賞しました。ただし、古くなるほど残る量が少なくなりすぎるため、信頼して測れる限界はふつう約5万年前までです。


暮らしと科学の中の同位体

寒い研究室で、暖かいコートと手袋を身につけた研究者が、層が見える細長い円柱形の氷床コア試料を調べている様子

同位体は実験室の外でも広く使われています。化学的な性質は同じで、重さや放射線だけが違うという点が、かえって役に立つのです。

(1)病気を見つけて治す医学
放射性同位体を体に少し入れると、それが集まる場所を画像で追跡できます。半減期が約6時間のテクネチウム99mは診断検査に広く使われ、ヨウ素131は甲状腺の治療に使われます。

(2)原子力発電の燃料
天然のウランのうち、核分裂を起こしやすいウラン235は約0.7%しかありません。そのため、発電所の燃料として使うには、この割合を高める濃縮という工程を経ます。

(3)過去の気候を読み解く氷
重い酸素18を含む水は、軽い水より蒸発しにくく、先に雨や雪となって降ります。そのため、南極の氷床の氷に含まれる酸素同位体の比率を測ると、その雪が降った頃の気温を推し量ることができます。

(4)産地を明かす目印
植物や動物に含まれる同位体の比率は、育った地域の水や土壌、気候によって少しずつ異なります。この違いを分析すれば、はちみつやワインなどの食品に安い材料が混ぜられていないか、本当に表示された地域で作られたのかを見分けることができます。


同位体は、見た目にはまったく同じ原子でも、中をのぞいてみるとそれぞれ違う物語を秘めていることを教えてくれます。わずか数個の中性子の違いが、古代の遺物の年齢を明らかにし、体の中の病気を見つけ出し、数十万年前の天気まで語ってくれるのです。

同じ名前の原子にも、それぞれ違う重さと時間が込められていると知ること、それが目に見えない原子の世界を深く理解する学びの第一歩です。

炭素12・13・14はいずれも陽子が6個で、中性子はそれぞれ6・7・8個。炭素12と13は安定で、炭素14は放射性である。半減期約5,730年ごとに残る炭素14が100%、50%、25%へと減っていく説明図。
同位体の原子核の構成と半減期の説明図。出典:米国エネルギー省(DOE)、IUPAC CIAAW。