博物館で数億年前の岩石の横に添えられた説明を見ると、年齢が驚くほど具体的に書かれています。けれどもその時代を直接見た人は誰もおらず、岩石にカレンダーが刻まれているわけでもありません。いったい何を手がかりに年齢を割り出したのでしょうか。鍵は、石の中をごく遅く、そして変わらぬ調子で進む原子の時計にあります。
この方法を放射年代測定(Radiometric Dating)と呼びます。岩石や遺物に含まれる放射性同位体と、それが変化してできた物質の量を比べて、試料がどれほど古いかを計算する技術で、今日、地球や化石の絶対年代を知るうえで最も大切な道具です。
この資料では、放射年代測定がどんなしくみで時間を読むのか、代表的な測定法は何が違うのか、地球の年齢はどう突き止められたのか、そしてこの時計を信じるには何に気をつけるべきかを、順に見ていきます。
石の中の原子時計を読み解く方法
半減期がつくる一定の時計

不安定な原子核は、時間がたつと自然に別の原子へ変わります。これを放射性崩壊といいます。ある一つの原子がいつ変わるかは分かりませんが、原子がたくさん集まると、半分が変わるまでにかかる時間は決まっています。これが半減期です。
(1) 親元素と娘元素
変わる前の原子を親元素、変わってできた原子を娘元素と呼びます。試料の中の両者の比を測れば、崩壊がどこまで進んだかが分かります。
(2) 環境に左右されない速さ
半減期は原子核の性質で決まるため、温度・圧力・化学反応にほとんど影響されません。この変わらなさが、原子を時計として使えるようにしてくれます。
(3) 時計が動き始める瞬間
鉱物がマグマから冷えて結晶になるときのように、親元素と娘元素がそれ以上出入りできなくなったときから時計は動き始めます。そのため、測定された年齢は岩石が冷えて固まった時点を指します。
砂時計にたとえると、上に残った砂と下にたまった砂の比から、どれだけ時間がたったかを読むようなものです。半減期を1回過ぎると親元素は半分、2回で4分の1、3回で8分の1だけが残る、という点さえ覚えておけば、原理の半分は理解したも同然です。

試料に合わせて選ぶいろいろな時計

崩壊の速さはそれぞれ違うため、時計ごとによく読める時間の範囲も異なります。数千年単位で精密な時計もあれば、数十億年を見積もる時計もあります。
- 炭素14(Carbon-14):半減期は約5,730年です。空気中の二酸化炭素を通じて生き物に取り込まれるため、骨や木のような有機物の年代を測ります。測定の限界はおよそ5万〜6万年です。
- カリウム-アルゴン(Potassium-Argon):カリウム40の半減期は約13億年で、火山岩のような古い岩石に使われます。
- ウラン-鉛(Uranium-Lead):ウラン238は約45億年、ウラン235は約7億年の半減期で鉛に変わります。二つの時計が一つの試料の中にそろっているので、互いに照らし合わせて確かめられます。
- ルビジウム-ストロンチウム(Rubidium-Strontium):半減期は約500億年で、非常に古い岩石や月の試料に使われます。
炭素14は1940年代末にウィラード・リビー(Willard Libby)が開発し、彼はこの業績で1960年にノーベル化学賞を受けました。一方、数億年前の岩石に炭素14を使っても、すでにほとんど残っていないので測定できません。結局、どの時計を使うかは、知りたい時間の長さと試料がどんな物質かで決まります。
地球の年齢を明かした鉛の秘密

放射年代測定は、1905年にアーネスト・ラザフォード(Ernest Rutherford)が地球の年齢を知る方法として提案し、1907年にバートラム・ボルトウッド(Bertram Boltwood)がウラン鉱物に含まれる鉛の量から岩石の年齢を求めたことで、本格的に始まりました。
(1) ジルコンの役割
ジルコンは結晶ができるとき、ウランは取り込みますが、鉛は強くはじき出します。そのため、いま中に入っている鉛はほぼすべてがウランの変化でできたものであり、年齢を読むのに向いています。西オーストラリアのジャックヒルズのジルコン結晶は、少なくとも44億年を超えると測定されました。
(2) 隕石で見つけた地球の年齢
地球の岩石はプレート運動で溶けては固まりを繰り返し、最初の記録が消えてしまいました。そこで、同じ時期にできた隕石が手がかりとなり、1956年にクレア・パターソン(Clair Patterson)がキャニオン・ディアブロ隕石などの鉛同位体を分析して、約45億5千万年という値を得ました。
(3) 今日の値
その後、測定はさらに精密になり、現在では地球の年齢を約45億4千万年(誤差は約5千万年)とみています。パターソンの値と比べると、70年近くがたっても大きな枠組みはそのまま保たれていることになります。
隕石という宇宙の化石がなかったら、地球の最初の時間は、いまも霧の中にあったかもしれません。
時計を信頼するための条件と点検

放射年代測定は、計算式に数字を入れれば答えが出る機械ではなく、いくつかの前提を確かめなければならない科学です。その前提が揺らいでいないかを確かめる過程が、信頼性をつくります。
(1) 閉じた系という仮定
試料ができたあと、親元素や娘元素が抜け出したり入り込んだりしてはいけません。岩石が再び熱せられると娘元素が抜け出して、時計が最初に戻されてしまうこともあります。
(2) アイソクロン法(Isochron)
同じ岩石の中の複数の鉱物の比を一つのグラフに打って直線をつくると、最初の娘元素の量が分からなくても年齢を求められます。直線がよく合うこと自体が、試料が無傷だという証拠になります。
(3) 異なる方法による照合
西グリーンランドのアミツォク片麻岩は、ウラン-鉛法で約36億年、鉛-鉛法で約35億6千万年となり、互いによく一致しました。
このように、独立した時計どうしが同じ答えを出すことこそ、放射年代測定を信頼できる最も心強い理由です。目に見えない原子の速さを信じて遠い過去に問いを投げかける勇気、それが放射年代測定の第一歩です。