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炎なしで灯る光、化学発光(Chemiluminescence)

キャンプ場やコンサート会場でスティックを「パキッ」と折って振ると、蛍光色の光が広がります。電池も電線もなく、手に握っても熱くありません。ろうそくや電球のように何かを燃やしたり熱したりしていないのに、どうして光るのでしょうか?その秘密は、スティックの中で起きる化学反応にあります。この現象こそが「化学発光(Chemiluminescence)」です。

化学発光とは、簡単に言えば「化学反応で生じたエネルギーが熱の代わりに光となって出てくる現象」を意味します。熱をほとんど出さないため「冷たい光」とも呼ばれ、生物の体の中で起きる場合は別に生物発光と呼ばれます。

この記事では、化学発光の定義と光が生まれる仕組みから、ケミカルライト、ルミノール、ホタルといった事例、そして実験室や産業の現場での使われ方までを順に見ていきます。

ケミカルライト内のガラス管が割れて二つの溶液が混ざり、反応エネルギーを受けた蛍光染料が励起状態から基底状態へ戻る際に光を出す過程と断面の説明図。
ケミカルライトの化学発光: 反応エネルギーが蛍光染料に伝わり、染料が低いエネルギー状態へ戻るときに光を出します。参考: IUPAC Gold Book; University of Washington, Kinetics of Light Sticks。IUPACの定義 · ケミカルライトの原理

化学反応が光を出す仕組み

化学発光とは何か?

照明を落とした化学実験室で、保護メガネと手袋をつけた研究者がビーカーの透明な溶液を三角フラスコに注ぐと、フラスコの中の液体がほのかな青い光を放っている様子

私たちがふだん目にする光のほとんどは、熱い物体から出ています。ろうそくや白熱電球のように、高い温度に熱せられた物体が光を出すことを白熱発光といいます。一方、化学発光は低い温度でも反応そのものが光を生み出します。

(1)昔から知られていた光
1669年にドイツのヘニッヒ・ブラント(Hennig Brand)が発見した白リンは、空気中でひとりでにほのかな緑色の光を放ちました。リン(Phosphorus)という名前が「光を運ぶもの」という意味のギリシャ語から来ているほど印象的な姿でしたが、この光は白リンが空気中の酸素と反応して生じる代表的な化学発光です。実験室で作られた物質としては、1877年にポーランドの化学者ブロニスワフ・ラジシェフスキ(Bronisław Radziszewski)がロフィン(Lophine)という化合物で初めて化学発光を観察しました。

(2)似ているけれど違う光
三つの光は、エネルギーをどこから得るかによって分けられます。

  • 蛍光(Fluorescence):光を吸収した物質が、すぐに別の色の光を出す現象です。
  • りん光(Phosphorescence):吸収した光のエネルギーをため込み、ゆっくりと放出する現象で、蓄光シールが代表的です。
  • 化学発光(Chemiluminescence):光を吸収せず、化学反応のエネルギーだけで光を出す現象です。

光が生まれる仕組み

日暮れどきのキャンプ場の木のテーブルの上で、両手が透明なスティックを折ると緑色の光がともり、その横に青・オレンジ・ピンクに光るスティックが置かれている様子

鍵となるのは「励起状態」です。物質の中の電子はふだん最も安定した基底状態にとどまっていますが、エネルギーを得ると、より高い段階に上がった励起状態になります。励起状態は不安定なので、電子はすぐに元の位置に戻り、そのとき余ったエネルギーを光の粒である光子として放出します。

(1)反応が励起した分子を作ります
ふつうの化学反応は、余ったエネルギーを熱として放出します。化学発光では、二つの物質が反応してできた生成物が、最初から励起状態で生まれます。この分子が基底状態に戻りながら光を出すため、温度はほとんど上がりません。

(2)光の色は分子が決めます
戻るときのエネルギーの大きさによって、光の色が変わります。エネルギーが大きければ青い光に、小さければ赤い光に近づきます。そのため、どの分子が光を出すかによって、同じ仕組みでもさまざまな色を作ることができます。


日常の中の化学発光

暗い部屋で、白い防護服とマスク、手袋を身につけた鑑識官が噴霧器でタイルの床に溶液を吹きつけると、床のあちこちにかすかな青い光のしみが浮かび上がり、横に三脚に載ったカメラが置かれている様子

化学発光は、実験室の外でも思ったより身近にあります。遊び道具から犯罪捜査、自然の中の生き物まで、その使い道はさまざまです。

[事例1]折ると光るケミカルライト

ケミカルライトの中には、シュウ酸エステルと蛍光色素が入った溶液と、過酸化水素を入れた薄いガラス管が入っています。スティックを折るとガラス管が割れて二つの溶液が混ざり、反応で生じたエネルギーが色素を励起させて光が出ます。この方式は、1960年代にアメリカのベル研究所のエドウィン・チャンドロス(Edwin Chandross)が見つけた反応をもとに、化学会社アメリカン・サイアナミッド(American Cyanamid)のマイケル・ラウハット(Michael Rauhut)が改良して、今日の形になりました。色素の種類を変えると緑、青、オレンジといった色が出て、暖かい場所ではより明るい代わりに早く消え、寒い場所では暗い代わりに長持ちします。

[事例2]血痕を見つけるルミノール

ルミノール(Luminol)は過酸化水素と反応すると青い光を出す物質で、1902年にドイツで初めて合成されました。1928年、ドイツの化学者H・O・アルブレヒト(H. O. Albrecht)は、血液がこの光をより強くすることを発見しました。血液中のヘモグロビンに含まれる鉄が反応を助けるためです。続いて1937年には、ドイツの法医学者ヴァルター・シュペヒト(Walter Specht)が、犯罪現場の血痕検査に使う方法を詳しく研究しました。拭き取った跡に残ったごくわずかな血液でも、暗い場所で約30秒間光を放ちます。

[事例3]夜を照らすホタル

ホタルは、体内のルシフェリン(Luciferin)がルシフェラーゼ(Luciferase)という酵素の助けを借りて酸素と反応することで光を出します。生き物が作り出す化学発光というわけで、深海のクラゲや魚も、種によって物質は違うものの、似た仕組みで光を放ちます。


化学発光の使い道と限界

照明を落とした生命科学の実験室で、白衣と手袋を身につけた研究者が小さなくぼみが並んだ透明な試料プレートを持ち、いくつかのくぼみがかすかな青い光を放っていて、横に引き出しの開いた分析装置が置かれている様子

化学発光は外から光を当てる必要がないので背景が暗く、そのぶんごくわずかな光でも正確にとらえることができます。この長所のおかげで、分析の道具として広く使われています。

(1)ごくわずかな量を見つけ出します
大気測定装置は、一酸化窒素がオゾンと反応するときに出る光を数えて、空気中の汚染物質の量を測ります。生命科学の実験では、特定のたんぱく質に光を出す反応を結びつけて、目に見えないほどわずかな量まで見つけ出します。

(2)一度ともすと元に戻せません
反応する物質が使い切られると光も終わるため、ケミカルライトは一度しか使えません。ルミノールもまた、鉄や銅を含む物質や漂白剤にも反応して光を出すため、光ったからといってすぐに血液だと決めつけず、別の検査でもう一度確かめる必要があります。


化学発光は、火をおこさなくても、物質と物質が出会いさえすれば光が生まれうることを教えてくれます。コンサート会場のケミカルライトも、捜査現場の青い光も、夏の夜のホタルも、すべて同じ仕組みで光っています。

目の前の光がどこから来たのかをもう一度問うこと、それが日常の中の化学探究の第一歩です。