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勝っても損をする、勝者の呪い(Winner's Curse)

激しい競売の末、ついに競売人のハンマーが振り下ろされると、勝った人は歓声を上げます。ところが数日後、冷静に計算してみると、品物の価値をはるかに上回る金額を支払ったことに気づくケースは少なくありません。競争に勝ったという事実そのものが損失の兆しとなるこの現象が、「勝者の呪い(Winner's Curse)」です。

勝者の呪いとは、簡単にいえば「価値が正確にはわからない品物をめぐって競争するとき、その価値を最も高く見誤った人が勝ち、結果として高すぎる代金を支払う現象」を意味します。勝った人の運が悪いからではなく、競争の仕組みが最も楽観的な人を勝者に選ぶために起こることです。

本資料では、勝者の呪いが初めて知られるようになった背景とその仕組みから、硬貨入りの瓶を使った実験や現実の事例、そして呪いを避ける賢い入札戦略まで、順に見ていきます。

勝者の呪いの仮想例。同じ品物について、Aは80万ウォン、Bは100万ウォン、Cは140万ウォンと見積もり、そのまま入札する。最高額を入札したCは140万ウォンを支払ったが、後から確認された実際の価値は100万ウォンだったため、40万ウォンの損失を被る。
すべての入札者にとって実際の価値が同じ品物に、それぞれが見積もった金額のまま入札する仮想例です。最高額の入札者が自ら提示した140万ウォンを支払い、実際の価値が100万ウォンと確認されると、損益は−40万ウォンとなります。落札したことは、自分の見積もりが相対的に高かったという情報になりうるため、入札前に、落札するという条件も織り込んで価値を評価する必要があります。すべての落札者が損をするわけではありません。出典: Nobel Committee(2020) および Bazerman・Samuelson(1983).

勝った瞬間に始まる損失の仕組み

勝者の呪いとは何か?

晴れた空の下、穏やかな青い海に海上石油掘削施設が立ち、そのそばに補給船が浮かんでいる様子

勝者の呪いという言葉は、1971年に米国の石油会社アトランティック・リッチフィールド(Atlantic Richfield)の技術者、エドワード・ケイペン(Edward Capen)、ロバート・クラップ(Robert Clapp)、ウィリアム・キャンベル(William Campbell)が石油工学の学術誌に発表した論文によって広く知られるようになりました。彼らは、メキシコ湾の大陸棚にある海底油田の採掘権競売で、石油会社が毎年、期待を下回る収益しか上げていないことに注目しました。

地下に埋蔵された石油の価値は、どの会社が手に入れてもほぼ同じです。ただし、当時は埋蔵量を正確に知る方法がなく、会社ごとの見積もりには大きな差がありました。実際の価値が1,000万ドルの油田を、ある会社は500万ドル、別の会社は2,000万ドルと見積もるなら、最も過大に評価した会社が落札することになります。

  • 勝者の呪い(Winner's Curse):競争入札で勝った人が、実際の価値より高く買ったり、期待より少ない利益しか得られなかったりする現象です。
  • 共通価値オークション(Common Value Auction):品物の実際の価値がすべての入札者にとって同じでありながら、誰もその価値を正確には知らない競売です。
  • 私的価値オークション(Private Value Auction):個人の好みによって価値が異なる競売で、この場合は勝者の呪いは生じません。

勝者の呪いが生じる仕組み

日差しの入る競売会場で、座っている複数の入札者が無地の札を掲げる姿を後ろから見た様子。前方の壇上には競売人が立っている

入札者の見積もりが平均的には正確だとしても、その中で最も高い見積もりは、実際の価値を上回っている可能性が高くなります。勝つということは、つまり自分が最も楽観的だったということだからです。

(1) 不確実性が大きいほど深刻になる
価値を見極めるのが難しいほど見積もりのばらつきが大きくなり、最も高い見積もりが実際の価値からかけ離れます。

(2) 競争相手が多いほど深刻になる
入札者が増えると、その中の誰かが価値を大幅に過大評価する確率も高まります。競争が激しくなるほど、勝った人の損失が大きくなるわけです。

(3) 勝利そのものが悪い知らせになる
経済学では、この点を「勝ったという条件の下での期待値」で説明します。自分が勝ったなら、ほかの人は全員、自分より低く価値を見積もっていたということなので、自分の見積もりをその分だけ引き下げて見直す必要があります。例えば、十人が同じ中古品に入札して自分が勝ったなら、残りの九人は全員、それより低い値段をつけていたということです。


身近な例で理解する勝者の呪い

明るい教室の木製の机の上に、硬貨がぎっしり入った大きなガラス瓶が置かれ、その後ろで学生たちが白紙のメモを持っている様子

勝者の呪いは、実験室でも現実の世界でも確認されています。

(1) 硬貨入りの瓶の競売実験
1983年、マックス・ベイザーマン(Max Bazerman)とウィリアム・サミュエルソン(William Samuelson)は、経営大学院の学生を対象に、硬貨などの入った瓶を競売にかけました。瓶の実際の価値は8ドルで、学生が見積もった価値は平均5.13ドルと、むしろ低いものでした。ところが、48回の競売で落札価格は平均10.01ドルとなり、勝者は平均2.01ドルの損失を被りました。全体としては価値を低く見積もっていたにもかかわらず、競争になると最も高く見積もった人が勝ち、損をしたのです。

(2) 周波数オークションと企業買収
2000年ごろ、欧州各国の第3世代(3G)移動通信の周波数オークションで、通信会社が天文学的な金額で入札した後、長年にわたって負債に苦しんだ出来事は、代表例としてよく挙げられます。他社を高値で買い取る買収競争でも、同じ構造が見られます。

(3) プロスポーツのフリーエージェント契約
複数の球団がある選手をめぐって競争すると、その選手の活躍を最も高く予想した球団が契約を勝ち取ります。その後、期待ほど活躍できず、「契約金のバブル」が議論になることもあります。住宅の購入希望者が大勢集まり、次々と高い金額を提示する状況にも、同じようなリスクがあります。


勝者の呪いを避ける賢い戦略

窓際の明るい机に座った人が、ペンと電卓をそばに置き、落ち着いて書類を検討しながら慎重に判断している様子

勝者の呪いは、避けられない運命ではありません。熟練した入札者は、「自分が勝つなら、おそらく自分が最も高く見積もった人なのだろう」という点をあらかじめ計算に入れ、最初の見積もりより低い金額を提示します。これを入札価格の引き下げ(Bid Shading)と呼びます。

  • 入札価格の引き下げ(Bid Shading):勝った場合の過大評価を考慮し、最初の見積もりより低い金額で入札する戦略です。
  • 上限価格の設定(Walk-away Price):競売が始まる前に、超えない価格をあらかじめ決めておく習慣です。

競争相手が多く、価値が不確実であるほど、大きく引き下げる必要があります。また、競売会場の熱気の中で「勝つこと」自体が目標にならないよう、あらかじめ決めた上限を守る姿勢が重要です。経済学者のリチャード・セイラー(Richard Thaler)が1988年の論考でこの現象を経済学の「アノマリー」として紹介したように、現実の人々は、理論どおりにいつも適切に入札価格を引き下げられるわけではないからです。


勝者の呪いは、価値が不確実な品物をめぐって競争するとき、最も楽観的な人が勝ち、高すぎる代金を支払う現象です。不確実性が大きく、競争相手が多いほど呪いは深刻になり、勝ったという事実を悪い知らせとして受け止め、あらかじめ入札価格を引き下げることが解決策となります。

競争の熱気に流される前に、自分が見積もった価値の限界を振り返ること。それが、勝った後にも笑顔でいられる賢い選択への第一歩です。