海外旅行に出かける日、出国審査を終えると、化粧品や香水、お酒やチョコレートがきらめくお店がずらりと続きます。飛行機を待つ短い時間にこうしたお店を見て回るのは、多くの人にとって旅の小さな楽しみでもあります。では、これらのお店はなぜわざわざ空港の内側に集まっていて、なぜ同じ品物を街中より安く売れるのでしょうか。その答えは「免税店(Duty-Free Shop)」という制度に隠れています。
免税店とは、簡単に言えば「国外へ持ち出す旅行者に品物を売る際、関税や付加価値税といった税金を抜いてくれるお店」のことです。品物がその国で使われず国外へ出ていくという条件が付くため、税金をかけないのです。
この記事では、免税店が初めて生まれた背景から、税金を抜ける仕組み、免税店のさまざまな形、そして買い物のときに知っておくと役立つ点まで、順に見ていきます。
税金なしで買い物できる場所、免税店の仕組みと種類
免税店はどのように始まったのか

世界初の免税店は、アイルランド西端の小さな空港で店を開きました。
(1)給油を待つ乗客たち
1940年代には飛行機が大西洋を一度で渡れず、ヨーロッパと北アメリカを行き来する旅客機はアイルランドのシャノン空港(Shannon Airport)に降りて燃料を補給していました。乗客はその間、空港で時間を過ごさなければなりませんでした。
(2)1947年、シャノン空港の試み
この空港の食堂と売店を任されていたブレンダン・オリーガン(Brendan O’Regan)は、待っている乗客に税金を抜いた値段で品物を売ろうと考え、1947年に世界初の免税店を開きました。反応はすぐに良く、この方式はたちまち世界各地の空港へ広がりました。このお店は今も営業しています。
(3)巨大な産業へと成長
1960年には、アメリカの実業家チャールズ・フィーニー(Charles Feeney)とロバート・ミラー(Robert Miller)が香港でデューティー・フリー・ショッパーズ(DFS)を設立しました。この会社はハワイの空港の免税販売権を獲得して日本人旅行者の心をつかみ、空港の外の市内店舗にまで広げて、世界最大のトラベルリテール企業へと成長しました。
税金を抜ける仕組み

免税店が税金を受け取らないことには、はっきりとした論理があります。
- 関税(Duty):国外から入ってくる品物にかける税金です。免税店の輸入品は税関が管理する保税倉庫にとどまり、そのまま旅行者とともに再び国外へ出ていくため、この国の中に入ってきた品物とは見なしません。
- 付加価値税(Value-Added Tax):品物を消費する人にかける税金です。多くの国が、品物を実際に使う国で税金を集めるという原則に従っているため、国外へ出て使われる品物にはこの税金を付けません。
- 個別消費税(Excise Tax):お酒、たばこ、高級時計のように特定の品物に別途かかる税金です。税金が重い品物ほど、免税店での価格差が大きく感じられます。
つまり免税店の品物は「税金を払わない品物」というより、「税金を払う国がまだ決まっていない品物」に近いのです。旅行者が到着した国で決められた限度額を超えると、その国の税金を払わなければならないのもこのためです。
免税店のさまざまな顔

免税店といえば空港の出国エリアを思い浮かべがちですが、実際の姿ははるかに多様です。
(1)出国エリアと機内の免税店
最も一般的な形で、出国審査を終えた空港や港の国際エリアにあります。飛行機や旅客船の中で品物を売る機内免税販売も同じ仕組みです。仁川国際空港は2016年の免税売上が約18億5,000万ドルで、世界の空港の中で最も多くなりました。
(2)市内免税店
街中のお店でパスポートと出国情報を確認してから品物を買い、品物は出国する日に空港の引き渡し場で受け取る方式です。ゆっくり選べるため、団体旅行客がよく訪れます。
(3)入国エリアの免税店
国に入るときに利用する免税店です。韓国では2019年5月に仁川国際空港に初めてオープンしました。
(4)免税ショッピングの旅行先
地域全体が免税ショッピングの舞台になる場所もあります。香港やシンガポール、カリブ海の島々が代表的で、中国・海南島の海口には世界で最も広い単独の免税ショッピング施設ができました。
免税ショッピングの前に知っておきたいこと

免税店を賢く利用するには、いくつかのことを覚えておくとよいでしょう。
(1)免税店とタックスリファンドは違う
タックスリファンド(Tax Refund)は、一般のお店で税金込みの値段で品物を買った後、出国するときに書類を見せて税金を返してもらう制度です。最初から税金を抜いて売る免税店とは順序が逆です。

(2)帰国時には限度額がある
外国で買った品物を持ち込むときは、国ごとに定められた免税限度額が適用されます。韓国の旅行者の基本免税限度額は2022年9月から800ドルで、これを超えるとその分の税金を払う必要があります。
(3)いつも一番安いとは限らない
税金が抜かれているからといって、いつも安く買えるわけではありません。空港のお店は賃料が高く競争が少ないため値段が高めに付けられることもあり、為替レートやセールによっては街中のお店のほうが安い場合もあります。
(4)制度も変わる
欧州連合は単一市場が定着すると、1999年に加盟国の間を行き来する旅行者の免税ショッピングを廃止しました。逆にイギリスは2021年に欧州連合を離れるにあたり、ヨーロッパへ向かう旅行者へのお酒やたばこなどの免税販売を再開しました。
免税店は単なるディスカウントショップではなく、品物がどの国で使われるかによって税金をかける国際ルールが生み出した独特な空間です。給油を待つ乗客のための小さなお店が、今日の巨大な旅行産業の柱の一つになったという点も興味深いところです。
出国エリアのきらめくお店の前で、その値段がどう決まったのかを一度思い浮かべてみること、それが旅行と経済をあわせて理解する観光学の第一歩です。