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速くなると圧力が下がる、ベルヌーイの定理

庭でホースを使って水をまくとき、ホースの先を指で軽くふさいでみたことがあるでしょう。水の出口が狭くなると、水流が急に速くなり、ずっと遠くまで飛んでいきます。同じ量の水が狭いすき間を通るには、より速く流れなければならず、このように流れが速くなる所では圧力が下がります。この関係を初めてまとめた法則が「ベルヌーイの定理(Bernoulli’s Principle)」です。

ベルヌーイの定理とは、簡単に言えば「一つの流れの中で、流体が速くなれば圧力が下がり、遅くなれば圧力が上がる」ということを意味します。空気や水のように流れる物質を流体といい、この原理は飛行機の速度計や自動車の気化器(キャブレター)から病院の酸素供給装置まで、さまざまな技術の土台となってきました。

本記事では、ベルヌーイの定理が生まれた背景と基本概念から、暮らしの中での活用例、そしてこの原理を誤って当てはめやすい代表的な誤解までを順に見ていきます。

同じ高さの管で、広い断面では流速が遅く静圧が高く、狭い断面では流速が速く静圧が低いことを比べたベルヌーイの定理の説明図。連続の式と、定常・非圧縮性・同一流線・損失無視の条件もあわせて示している。
同じ高さの管の中の2地点を比べた説明図です。定常・非圧縮性の流れで同じ流線上を比べ、粘性による損失や外部からのエネルギー供給を無視した場合です。出典:NASA Glenn, Bernoulli’s Equation · Conservation of Mass。

流れの速さと圧力の関係

ベルヌーイの定理とは何か?

18世紀の学者の書斎で、かつらをかぶった人物が机の上のガラス容器から細くなっていくガラス管へと流れる水を観察している場面

ベルヌーイの定理は、スイスの数学者であり物理学者でもあるダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)にちなんで名付けられました。彼は1738年に刊行した著書『流体力学(Hydrodynamica)』で、流れが速くなる所では圧力が下がることを明らかにしました。今日使われている形の方程式は、1752年ごろにレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)がまとめたものです。

(1)エネルギー保存から見た原理
流れる流体は、圧力、運動、高さという三つの形でエネルギーを持っています。外からエネルギーを加えたり取り除いたりしない限り、この三つの合計は一定に保たれます。そのため、運動の分である速度が大きくなると、圧力の分はその分だけ小さくなります。

(2)力から見た原理
同じ現象は、ニュートンの運動法則でも説明できます。流体の小さなかたまりは、後ろ側の圧力が前側より高いときに前へ押されて速くなります。つまり、圧力の高い所から低い所へ流れながら速度がつくのです。


原理が成り立つ条件

明るい大学の流体力学実験室で、中央が細くなった透明な管の中を絵の具の筋がなめらかに流れ、白衣姿の学生がそれを見守っている様子

ベルヌーイの定理はいつでもそのまま当てはまる万能の法則ではなく、いくつかの条件を満たした流れで最も正確になります。

  • 定常流(Steady Flow):ある地点の速度と圧力が時間とともに変化しないこと。
  • 非圧縮性(Incompressibility):圧力が変わっても流体の密度がほとんど変わらないこと。水はほぼこの条件を満たし、空気も音速の約30パーセントより遅く流れるときは同じように扱えます。
  • 摩擦の無視(Inviscid Flow):流体内部のねばり、つまり粘性によって失われるエネルギーが小さいこと。長い管の内壁付近のように摩擦が大きい所では、あまり当てはまりません。

もう一つ大切なのは、この原理が同じ流れの中の二つの地点を比べるときに使う法則だという点です。別々の所から出発した二つの流れを並べて、速いほうが圧力が低いと決めつけることはできません。この条件を見落とすと、以下で見ていくさまざまな誤解が生まれます。


暮らしと技術の中のベルヌーイの定理

飛行場に止められた白い小型飛行機の翼の下から突き出た小さな金属製のピトー管を、整備士が点検している様子

速さと圧力の関係を利用すれば、目に見えない流れを測ったり、流体を望む所へ引き込んだりすることができます。

(1)流れを測るベンチュリ管
管の中央をくびれさせて狭くすると、そこで流れが速くなり圧力が下がります。これをベンチュリ効果といいます。広い所と狭い所の圧力差を測れば管の中を流れる量を計算できるため、上水道や工場の配管で流量計として広く使われています。

(2)飛行機の速度を教えるピトー管
飛行機の前方に取り付けられた小さな管であるピトー管は、正面からぶつかる空気の圧力を受け止め、側面の穴は周囲の空気の圧力を測ります。二つの圧力の差から、機体が空気の中をどれほどの速さで進んでいるかを割り出します。

(3)燃料を吸い上げる気化器
かつての自動車やオートバイのエンジンの気化器は、空気の通り道を狭めて圧力を下げ、その力で燃料を吸い上げて空気とむらなく混ぜていました。霧吹きやエアブラシも、速い空気の流れで液体を吸い出し、細かく吹き散らします。

(4)酸素濃度を調整するベンチュリマスク
病院で使われるベンチュリマスクは、狭い穴から酸素を勢いよく噴き出し、下がった圧力で外の空気も一緒に引き込みます。穴の大きさによって混ざる空気の量が決まるため、患者に一定濃度の酸素を安定して届けることができます。


ベルヌーイの定理に関するよくある誤解

小さな風洞の中に置かれた翼の模型の上下を細い煙の筋が流れ、後縁で下向きに曲がる様子を、技術者がガラス壁越しに観察している場面

あまりにも有名な原理であるため、実際には別の理由で起こる現象までベルヌーイの定理で説明されることがよくあります。

(1)翼の上下の空気が同時に出会うという説明
翼の上面のほうが長いので、上側の空気が後縁で下側の空気と同時に出会おうとして速く流れる、という説明が広く知られています。しかし、空気が同時に到着しなければならない理由はなく、実験してみると上側の空気のほうがむしろずっと先に後縁に達します。翼の上の空気が速く圧力が低いという結論自体は正しいのですが、その理由は翼が空気の流れを下向きに曲げて送り出すからだと考えるほうが正確です。

(2)紙の上に息を吹きかけると紙が浮くという実験
口から出た息はすでに周囲の空気と同じ圧力になっているため、速いというだけで圧力が下がるわけではありません。紙が浮くのは、息が曲がった紙の面に沿って曲がりながら流れ、圧力の差が生まれるからです。風の中に卓球のボールが浮かんでいる現象も、流れがボールを中央へ押し戻してくれるために起こります。


ベルヌーイの定理は、流れる流体の中で速さと圧力が互いに入れ替わるという事実を示しています。ベンチュリ管やピトー管、気化器のように、この原理を正しく使った技術は今日もあちこちで働いています。ただし、同じ流れの中でしか成り立たないという条件を忘れると、もっともらしいけれど間違った説明に陥りやすくなります。風が吹いている所で何かが浮いたり引き寄せられたりする場面を見たときは、それが本当に同じ流れの中の速さの違いによるものなのか、もう一度考えてみる習慣が役に立ちます。

原理が通用する範囲まであわせて考えてみること、それが流れを読み解く物理学の第一歩です。