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光が抜け出せない瞬間、全反射(Total Internal Reflection)

プールの底に沈んで水面を見上げたことはありますか。頭上には空が丸い窓のように見え、その外側の水面は鏡のようにプールの底の姿を映しています。水中の光が水面を突き抜けられず、すべて戻ってくるためで、この現象こそが「全反射(Total Internal Reflection)」です。

全反射とは、簡単に言えば「光が屈折率の大きい物質から小さい物質へ進むとき、境界面に当たる角度が一定の値より大きいと抜け出せずにすべて反射される現象」を意味します。鏡に塗る銀の膜がなくても光を損失なく送り返すため、光を遠くまで運んだり、思いどおりの方向へ曲げたりするのに広く使われています。

本資料では、全反射が起こる原理から、水の流れの中で初めて発見された歴史、インターネットを支える光ファイバー、そしてダイヤモンドや双眼鏡の中に見られる身近な例までを順に見ていきます。

屈折率の大きいガラスから小さい空気へ向かう光の入射角が臨界角より大きいとき、法線を基準に同じ角度で反射される全反射の図解。条件はn1>n2、入射角>臨界角、sin(臨界角)=n2/n1で、1.50のガラスから1.00の空気へ向かうときの臨界角は約41.8度。
全反射の二つの条件と臨界角をひと目でまとめた図解。出典:OpenStax, University Physics Volume 3, 1.4 Total Internal Reflection。

光を閉じ込める全反射の原理と活用

全反射とは何か?

明るい実験台の上で、透明なガラスブロックの側面に入った赤いレーザー光が境界で曲がり、ガラスの中を斜めに進んでいく様子

光は物質によって進む速さが違うため、ある物質から別の物質へ移るとき、境界面で向きが曲がります。これが屈折であり、全反射はこの屈折がもう起こりえなくなったときに現れます。

(1) 屈折率とスネルの法則(Snell’s Law)
屈折率は、真空に比べて光がその物質の中でどれだけ遅くなるかを表した値で、空気は約1.0、水は約1.33、ガラスは約1.5です。17世紀初めにオランダのヴィレブロルト・スネル(Willebrord Snellius)がまとめた法則によれば、二つの物質の屈折率をn1、n2とするとき、n1 × sin(入射角) = n2 × sin(屈折角)が成り立ちます。

(2) 臨界角(Critical Angle)
水から空気へ出ていく光は、境界面で水面側へさらに傾いて曲がります。入射角を少しずつ大きくしていくと、屈折した光が水面にぴったり沿って進む瞬間が訪れ、このときの入射角が臨界角です。入射角が臨界角より大きくなると、光は一筋も抜け出せず、すべて内側へ反射されます。

  • 水から空気へ(Water to Air):臨界角は約48.6度です。
  • ガラスから空気へ(Glass to Air):臨界角は約42度です。
  • ダイヤモンドから空気へ(Diamond to Air):臨界角は約24.4度と非常に小さいです。

全反射は、必ず屈折率の大きい側から小さい側へ進むときにだけ起こります。空気から水へ入る光は、どれほど斜めに当てても全反射しません。


水の流れに沿って曲がった光

19世紀風の講義室の実験台で、真鍮の照明器が水槽の中へ光を当て、水槽の穴から流れ出る水流が光を宿したままきらめきながら落ちていく様子

光はまっすぐにしか進まないと考えられていた時代に、光が曲がった道をたどれることを初めて示したのは、スイスの物理学者ダニエル・コラドン(Daniel Colladon)です。1841年、ジュネーブ大学で水槽の穴から噴き出す水流について講義していた彼は、暗い講義室で水流を見やすくするために、水槽の後ろから太陽光を集めて当てました。

すると光は放物線を描いて落ちる水流の中に閉じ込められたまま一緒に曲がって進み、水流がばらける先端できらめきながら抜け出しました。水流の内側の壁に当たる光が臨界角より斜めにぶつかり、全反射を繰り返したためです。コラドンはこの実験を1842年にフランス科学アカデミーの学術誌で報告しました。

  • ティンダルの実演(Tyndall’s Demonstration):1854年にイギリスのジョン・ティンダル(John Tyndall)がロンドンの王立研究所での講演で同じ実験を披露して広く知られるようになり、そのためしばらくはティンダルが最初に発見したと誤って伝えられることもありました。
  • 光る噴水(Luminous Fountain):19世紀後半のロンドンやパリの大博覧会では、この原理で噴水の水流一本一本に光を乗せ、華やかな照明噴水がつくられました。

光ファイバー、光で世界をつなぐ

細い光ファイバーの束が扇形に広がって先端ごとに青や白の光の点が輝き、ゆるやかに曲がった一本の光ファイバーが光を運んでいる接写写真

全反射が最も大きな仕事を果たしている場所が光ファイバー(Optical Fiber)です。光ファイバーは髪の毛のように細いガラスの糸で、屈折率が少し大きい中心部と、それを包む屈折率が少し小さい外側の層でできています。

(1) コアとクラッド(Core and Cladding)
光信号は中央のコアに沿って進み、境界面に斜めにぶつかるたびに全反射して再び内側へ戻ります。そのため光ファイバーがゆるやかに曲がっていても、光は外へ漏れずに数十キロメートルを走ります。

(2) 澄んだガラスへの挑戦
1966年、チャールズ・カオ(Charles K. Kao)とジョージ・ホッカム(George Hockham)は、ガラスの中の不純物さえ十分に取り除けば、1キロメートルあたりの光の損失を20デシベル程度まで減らして通信に使えるという論文を発表しました。20デシベルとは1キロメートル進んでも光の100分の1が残るという意味ですが、当時最も透明なガラスは1キロメートルあたり約200デシベルを失っていました。1970年にアメリカのコーニング(Corning)の研究チームが損失を約17デシベルまで下げた光ファイバーをつくってこの目標を超え、カオはその功績で2009年にノーベル物理学賞を受賞しました。

今日、海の底を横切って大陸を結ぶ海底ケーブルも光ファイバーでできており、私たちがやり取りするデータのほとんどは全反射する光に乗って行き来しています。


日常の中で出会う全反射

晴れた日の屋外プールの底から見上げた水面に、青い空と日差しが丸い窓のように見え、その外側の水面が鏡のようにプールの底を映している様子

全反射は、実験室や通信網の外でも私たちの身近にあります。銀の鏡がなくても光をそのまま送り返せるという長所から、さまざまな光学機器や宝石の加工に使われています。

  • ダイヤモンド(Diamond):臨界角が約24.4度と小さいため、上から入った光がいくつもの面で全反射を繰り返したあと、上面に集まって出てきます。ブリリアントカットの角ばった面は、この効果を最大限に引き出すよう設計されており、ダイヤモンド特有の輝きを生み出します。
  • 双眼鏡のプリズム(Binocular Prism):双眼鏡の中の直角プリズムは、光が45度でぶつかるように置かれています。ガラスの臨界角約42度より大きいため、鏡がなくても光を曲げて像を正立させます。
  • スネルの窓(Snell’s Window):水中から見上げると、水面の上の世界全体が幅約97度の円の中に収まって見え、その外側の水面は鏡のように水中を映します。臨界角48.6度の2倍の範囲だけ空が開けて見えるのです。
  • 内視鏡(Endoscope):細い光ファイバーの束が体の中へ光を送り、映像を受け取ってくるため、切開せずに胃や腸の中をのぞけます。

全反射は、光が屈折率の大きい物質から小さい物質へ進み、臨界角より斜めに境界にぶつかったとき、一筋も漏れずに戻ってくる現象です。ある講義室の水流から始まったこの発見は、光ファイバーや内視鏡、輝く宝石の中で今日も光の道をつくっています。光が抜け出せない角度を知れば、光が進む道も設計できるのです。

境界で戻ってくる光の性質を理解すること、それこそが光を扱う技術の第一歩です。