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カメラのために演出されたニュース、疑似イベント(Pseudo-Event)

夜のニュースを見ていると、記者会見、新製品発表会、記念式典、授賞式のように、あらかじめ日時と場所が決まっている話題がやけに多いことに気づきます。地震や火災のように突然起きたことではなく、最初からカメラの前に立つために準備された出来事です。このように報道されることを目的として作られた出来事を指す言葉が「疑似イベント(Pseudo-Event)」です。

疑似イベントとは、簡単に言えば「自然に起きたのではなく、メディアに報道され広く知られるように誰かが計画し演出した出来事」を意味します。アメリカの歴史学者ダニエル・ブーアスティン(Daniel J. Boorstin)が1961年の著書『幻影の時代』(The Image: A Guide to Pseudo-Events in America)で初めて示した概念で、今でも広報や政治、ニュース生産を分析する際によく使われます。

本資料では、疑似イベントの意味と誕生の背景から、ブーアスティンが挙げた4つの特徴、身の回りの代表的な事例、そしてこの現象がニュースと世論に残す影響まで、順に見ていきます。


報道のために演出される現実、疑似イベントの特徴と影響

疑似イベントを、報道と拡散を主な目的として企画された出来事として説明した図。企画からイベント・演出、報道・拡散へと続く概念の流れ、ブーアスティンの4つの特徴、実際に開かれたイベントでありうることと、虚偽かどうかは別に確認すべきだという注意点を示している。
報道・拡散を主な目的として企画された出来事を説明した概念図です。疑似イベントはすなわち偽情報という意味ではなく、企画の意図と資料・主張の事実性は別に検討する必要があります。計画されたイベントだという理由だけで、すべてを否定的に決めつけることはしません。自己実現的な効果は通常意図されるものですが、結果が必ず実現するという意味ではありません。概念の根拠:ブーアスティン『幻影の時代』原典抜粋。区別の参考:Information Disorder報告書。2つの資料を参考にした編集上の整理です。画像をクリックすると元のサイズで見られます。

疑似イベントとは何か?

1920年代風のホテルの宴会場に記念晩餐会の食卓が用意され、手前には昔ながらの報道用カメラが三脚の上に立っている様子

ブーアスティンは疑似イベントを説明する際、「広報の父」と呼ばれるエドワード・バーネイズ(Edward Bernays)が1923年の著書で紹介したホテルの話を例に挙げました。

(1)30歳の誕生日を迎えたホテル
評判を高めたいホテルのオーナーが広報の専門家を訪ねます。以前なら新しい料理人を雇ったり客室を改装したりする方法を思い浮かべたでしょうが、広報の専門家はホテル開業30周年の記念行事を開こうと提案します。銀行家や弁護士、地元の名士で委員会を作り、盛大な祝宴を開くと、写真が撮られ新聞に載ります。行事そのものが「このホテルは地域の誇り」という証拠になり、ホテルは実際にそれだけの名声を得ることになります。

(2)ニュースを探す時代からニュースを作る時代へ
ブーアスティンは、新聞や放送が増えて毎日埋めなければならない紙面や放送時間が多くなると、ニュースを発見する代わりにニュースを作り出すことが当たり前になったと考えました。彼は、こうした出来事があふれることで、人々が現実の世界よりも演出されたイメージをより生々しく体験するようになったと批判しました。

疑似イベントを見分ける4つの特徴

行事が始まる直前の記者会見場で、マイクが集まった演台と空いた椅子、演台に向けられた何台もの放送用カメラが置かれている様子

ブーアスティンは、疑似イベントが次の4つの特徴を持つとまとめました。

  • 計画性(Not Spontaneous):列車事故や地震のように自然に起きるのではなく、誰かが計画したり、仕込んだり、あおったりして生まれます。典型的な例がインタビューです。
  • 報道目的(Planted for Reporting):報道され広まることを主な目的とし、時間や場所もメディアが取材しやすいように合わせます。成否はどれだけ広く報道されたかで決まります。プレスリリースが「後日発表用」として事前に配布されながら、すでに起きたことのように書かれるのもこのためです。
  • 曖昧な現実性(Ambiguous Relation to Reality):実際の現実との関係があいまいで、人々は「何があったのか」よりも「本当の意図は何か」に関心を向けます。
  • 自己成就的予言(Self-Fulfilling Prophecy):ホテルの記念行事のように、何かが重要だと知らせる行為が、それを実際に重要なものにします。

彼は、こうした出来事は劇的で、繰り返すことができ、さらに別の疑似イベントを生むと付け加えました。一つの記者会見が反論会見や解説記事につながるのがその例です。

わかりやすい例で見る疑似イベント

夜のレッドカーペットのイベントで、ロープの後ろに立つカメラマンたちがフラッシュをたきながらドレス姿の人を撮影している様子

疑似イベントは思っているよりもずっと身近にあります。

(1)自由のたいまつ行進
1929年、バーネイズはたばこ会社の依頼を受け、ニューヨークのイースター・パレードで女性たちがたばこを吸いながら歩くようにしました。彼はたばこを「自由のたいまつ(Torches of Freedom)」と呼び、あらかじめ写真家まで配置して、この場面が女性解放の象徴のように報道されるようにしました。市民の自発的なデモのように見えましたが、実際には売り上げを伸ばすために企画された行事でした。

(2)今日の疑似イベント
新製品の発表イベント、授賞式のレッドカーペット、政治家の現場視察の写真、企業の寄付金贈呈式が代表的です。注目を集めるためのデモや慈善イベント、わざと漏らしたかのような情報公開も同じ枠組みで見ることができます。ソーシャルメディアの時代には、最初から短い動画で広まるように設計された「見せるための」場面が新たな疑似イベントになりつつあります。

疑似イベントがニュースと世論に落とす影

夕方、ソファに座った人が後ろから見え、光るテレビ画面を見ながらスマートフォンを手に物思いにふけっている様子

疑似イベントがすべて悪いわけではありません。記者会見は多くのメディアに同じ情報を同時に伝える効率的な方法であり、キャンペーン行事は埋もれていた社会問題に関心を集めることもあります。

(1)紙面を占める演出
問題は、準備された出来事は取材しやすいという点にあります。時間と資料があらかじめ与えられるので、メディアは手軽に記事を書けますが、その分、予告なく起きる重要な現実や、長く掘り下げなければならない問題が後回しにされることがあります。ブーアスティンは有名人を「有名であることで有名な人」と表現し、イメージが実体を追い越す現象に警鐘を鳴らしました。

(2)演出を読み解く目
ニュースを見るときに「この出来事は誰が、なぜ、いつ報道されるように準備したのだろう?」と一度問いかけてみると、出来事の表面と真意を分けて見ることができます。行事の華やかさよりも、実際に何が変わったのかを別に確かめる習慣も役に立ちます。


疑似イベントは、メディアと広報、政治が互いを必要とする地点で生まれ、私たちが目にするニュースのかなりの部分がこのように企画された場面で埋められているという事実に気づかせてくれます。演出そのものをなくすことはできませんが、その演出が何を見せ、何を隠しているのかは十分に考えることができます。

画面の中の場面の裏に隠れた意図と実際の変化をあわせて見ること、それこそが演出された世界で本当のニュースを見分ける知恵の第一歩です。

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