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自分だけが見るカスタム世界、フィルターバブル

同じ時間に友人と並んで座り、同じ言葉を検索しても、画面に表示される結果が互いに違うことがあります。動画アプリを開けば昨日見た動画と似た動画が次々と続き、ソーシャルメディアでは自分と考えが似ている人の投稿が先に表示されます。便利ではありますが、その一方で、自分が見ずに通り過ぎた情報が何なのかを知るすべはありません。

このように「検索エンジンやソーシャルメディアのパーソナライズ・アルゴリズムが、利用者の好みそうな情報だけを選んで見せることで、利用者が自分の好みや視点に合う情報に囲まれた泡の中に閉じ込められる現象」を「フィルターバブル(Filter Bubble)」といいます。目に見えないフィルターが自分だけの情報世界をつくり出す、という意味を込めた名前です。

本記事では、フィルターバブルという言葉が生まれた背景から、泡ができる仕組み、この概念をめぐる研究と反論、そして泡の外を見るための方法までを順に見ていきます。


アルゴリズムがつくる自分だけの情報世界、フィルターバブル

人によって異なる検索結果

明るいリビングのソファに並んで座った二人の友人が、それぞれノートパソコンを手に、違って見える画面を見比べている様子

フィルターバブルという言葉は、アメリカの市民運動家で作家のイーライ・パリサー(Eli Pariser)が、2011年のTEDトークと同じ年に出版した著書『閉じこもるインターネット(The Filter Bubble)』で広めました。

(1)すべての人のためのパーソナライズ検索
パリサーは、2009年12月にGoogleがログインしていない利用者にまでパーソナライズ検索を適用したことを大きな転換点と見ました。接続場所、使っているブラウザ、過去の検索履歴など57種類のシグナルから利用者を推測して結果を変える、というのが彼の聞いた説明でした。

(2)同じ言葉、違う結果
2010年のメキシコ湾原油流出事故のころ、彼は似た傾向を持つ二人の友人に石油会社の名前「BP」を検索してもらいました。一人の最初の画面には投資情報が、もう一人の画面には原油流出のニュースが表示されました。

(3)消えた隣人の声
彼は、自分のフェイスブックで政治的傾向の異なる友人たちの投稿がいつの間にか見えなくなった経験も打ち明けました。その投稿をあまりクリックしなかったという理由で、アルゴリズムが静かに取り除いていたのです。


泡はどのようにできるのか

明るい部屋の机でスマートフォンのフィードをスクロールする若い人を、シャボン玉のような透明な光の球が包み込んでいる様子

フィルターバブルは誰かが意図的につくるものではなく、パーソナライズされたサービスの仕組みから自然に生まれます。

  • 行動データ(Behavioral Data):何をクリックしたか、どのくらい長く見たか、何に「いいね」を押したかがすべて蓄積され、利用者の好みを推測する材料になります。
  • 推薦アルゴリズム(Recommendation Algorithm):蓄積された記録をもとに、利用者が最も長くとどまりそうなコンテンツを前のほうに配置します。
  • フィードバックループ(Feedback Loop):推薦されたものを見ると、その記録がまた蓄積され、次の推薦はさらに似たものになります。この過程が繰り返されるほど、泡は固くなります。

パリサーが特に問題視したのは、泡が目に見えないという点です。新聞は編集者が選んだ記事を誰にでも同じように見せますが、パーソナライズ・アルゴリズムは人ごとに違う画面を見せます。利用者は何が入ってくるかを自分で決められないだけでなく、何が取り除かれたのかを知ることも困難です。

似た意味で使われる言葉に「エコーチェンバー(Echo Chamber)」があります。エコーチェンバー現象とは、考えの似た人同士が集まって同じ意見をやり取りするうちに、その考えがどんどん強まっていく現象を指します。フィルターバブルがアルゴリズムの選んだ情報に囲まれることに重きを置くとすれば、エコーチェンバーは人々が自ら集まって互いの声を反響させ合うことに重きを置きます。


アルゴリズムだけのせいではない

明るいオフィスで研究者たちが壁の画面に映したカラフルなネットワーククラスターのデータ可視化を指さしながら話し合っている様子

フィルターバブルは大きな関心を集めましたが、その力は思われているほど大きくないという研究も出てきました。

2015年に学術誌『サイエンス(Science)』に掲載された研究で、フェイスブックの研究チームはアメリカの利用者約1,010万人のデータを分析しました。ニュースフィードのアルゴリズムを経ると、政治的傾向が反対側のニュースを目にする可能性は、保守的な利用者で約5%、リベラルな利用者で約8%減りました。

ところが、利用者が自分で何をクリックするかを選ぶ段階では、反対側のニュースをクリックする可能性が、保守派でさらに17%、リベラル派でさらに6%減りました。研究チームは、多様な視点に触れることを妨げるうえで、アルゴリズムよりも利用者自身の選択のほうが大きな役割を果たしていると結論づけました。ただし、研究を行ったのがフェイスブック自身である点から、解釈には注意が必要だという指摘もありました。

結局のところ、フィルターバブルは技術だけの問題ではなく、慣れ親しんだ心地よい情報を求める人間の習慣とアルゴリズムがともにつくり出す現象と見るほうが正確です。


泡の外を見る方法

日の差し込むカフェのテーブルで、ある人が何種類もの紙の新聞とタブレットを並べて広げ、読んでいる様子

フィルターバブルを完全に避けるのは難しいですが、泡の壁を薄くする習慣を身につけることはできます。

日常でできること
  • 多様な情報源(Diverse Sources):一つのアプリや一つのチャンネルだけに頼らず、立場の異なるメディアの記事もあえて探して読みます。
  • 履歴の管理(History Management):検索履歴や視聴履歴をときどき消したり、パーソナライズ設定をオフにしたりすると、いつもと違う結果に出会えます。
  • 新着順表示(Chronological Feed):おすすめ順ではなく時系列順で投稿を見る機能があれば、あわせて使ってみましょう。
  • 反対意見を読む(Counterarguments):自分の考えと異なる主張を最後まで読んでみると、泡の外の視点を理解する助けになります。

泡を取り払うことは、結局のところ、アルゴリズムが見せるものの向こう側に興味を持つ姿勢から始まります。


フィルターバブルは、便利なパーソナライズ・サービスが私たちの視野を静かに狭めうることを示しています。そして、その泡の厚さを決めるうえで、アルゴリズムと同じくらい私たち自身の選択も大きな役割を果たしていることを教えてくれます。

画面が見せる世界が世界のすべてではありません。自分が見ている情報が誰かに選ばれたものだと気づくこと、それが泡の外のより広い世界と出会う、バランスの取れた情報生活の第一歩です。

自分の選択から個別のおすすめ、そして再び選択へとつながるフィードバックを、料理動画の架空の例で説明したフィルターバブルの概念図。おすすめの仕組み、友人関係、利用者の選択がともに影響し、情報が常に孤立するわけではない。
フィルターバブルを理解するための概念図・架空の例。行動の記録と個別のおすすめは互いに影響し合い、異なる視点に触れる度合いはおすすめの仕組み・人間関係・利用者の選択によって変わります。すべてのサービスや人に同じ結果が生じるという意味ではありません。出典:YouTube公式ブログ(2021)、https://blog.youtube/inside-youtube/on-youtubes-recommendation-system/ ;Bakshy・Messing・Adamic(2015)、Science、https://doi.org/10.1126/science.aaa1160