水を鍋に入れて加熱すると、水は液体のままでいて、100°Cに達すると水蒸気になって飛んでいきます。圧力鍋のように圧力を上げると沸点が上がり、水はさらに熱くなっても液体のまま耐えます。反対に高い山では圧力が低いため、水が100°Cより低い温度で沸騰し、ご飯が生煮えになることもあります。では、温度と圧力を果てしなく一緒に上げていくと、水はどうなるのでしょうか。
ある地点を超えると、液体と気体を分けていた境界が消え、どちらとも呼びにくい状態が現れます。このように臨界点より高い温度と圧力に置かれ、液体と気体の区別がなくなった物質を「超臨界流体(Supercritical Fluid)」といいます。気体のように広がりながらも液体のようにほかの物質をよく溶かすという独特の性質のおかげで、コーヒー工場から発電所までさまざまな場所で使われています。
本記事では、超臨界流体が生まれる臨界点の意味から、気体と液体の間にある性質、産業で使われる事例、そして自然の中で見つかる超臨界流体まで、順に見ていきます。
液体でも気体でもない状態、超臨界流体
臨界点とは何か

超臨界流体を理解するには、まず臨界点(Critical Point)という特別な温度と圧力を知る必要があります。
(1) 沸点曲線の終わり
圧力を高めるほど物質の沸点は上がります。圧力と温度によって液体と気体が分かれる境界をつないで描くと一本の曲線になりますが、この曲線は果てしなく続くわけではなく、ある一点で止まります。この終点こそが臨界点です。
(2) 境界が消える瞬間
臨界点に近づくほど、液体はだんだん薄くなり、気体はだんだん濃密になります。ついに臨界点に達すると両者の密度が等しくなり、液体と気体を区別できなくなって、一つの流体だけが残ります。臨界温度より熱い気体は、どれだけ圧縮しても液体には変わりません。
(3) 物質ごとに異なる臨界点
水の臨界点は約374°C、約22MPaで、大気圧の200倍を超えます。一方、二酸化炭素は約31°C、約7.4MPaで臨界点に達するため、比較的簡単に超臨界状態をつくることができます。しかも二酸化炭素は毒性が低く、燃えず、値段も安いため、産業で最もよく使われる超臨界溶媒になりました。
気体と液体の間の性質

超臨界流体は気体と液体の長所をあわせ持っているため、化学者が特に関心を寄せる物質です。
(1) 気体のようによく染み込む性質
超臨界流体は粘り気が気体に近いほど低く、分子がすばやく広がっていきます。そのため、穴の多い固体の中にも気体のように簡単に染み込み、隅々まで届くことができます。おかげで原料の奥深くに隠れた成分も短時間で取り出せます。
(2) 液体のようによく溶かす性質
密度は液体に近いほど高くなりうるため、ほかの物質を溶かす力が気体よりはるかに強くなります。また、液体と気体の界面がないため、表面張力も生じません。
(3) つまみのように調節できる性質
臨界点の近くでは、圧力や温度を少し変えるだけで密度が大きく変わります。密度が変われば溶かす力も一緒に変わるので、圧力を調節して欲しい成分だけを選んで溶かしたり、再び分離させたりできます。同じ一つの溶媒で複数の成分を順に分けて得られる点が大きな長所です。
超臨界流体が使われる場所

こうした性質のおかげで、超臨界流体は有害な有機溶媒に代わるクリーンな溶媒として広く使われています。
- デカフェコーヒー(Decaffeinated Coffee):超臨界二酸化炭素で、焙煎前の生豆からカフェインを取り出します。圧力を下げると二酸化炭素は気体になって抜けるため、溶媒はほとんど残りません。
- ビールと香料(Hops and Fragrance Extraction):ビールに使うホップの成分や花の香り、植物の油を取り出すのにも同じ方法が使われます。
- 超臨界乾燥(Supercritical Drying):表面張力なしに溶媒を抜き取れるため、非常に軽く穴の多いエアロゲルや繊細な生物標本を壊さずに乾燥させられます。
- 超臨界流体クロマトグラフィー(Supercritical Fluid Chromatography):混合物を成分ごとに分ける分析手法で、熱に弱い物質も扱えるため、鏡像のようによく似た医薬品分子を見分けるのに使われます。
- 超臨界発電(Supercritical Power Generation):水を超臨界状態まで熱してタービンを回すと、一般的な発電方式の約39%から約45%まで熱効率を引き上げることができます。
自然の中の超臨界流体

超臨界流体は実験室や工場だけにある物質ではなく、地球やほかの惑星でも自然につくられています。
(1) 大砲の中で初めて発見された状態
1822年、フランスのシャルル・カニャール・ド・ラ・トゥール(Charles Cagniard de la Tour)は、液体と石の球を入れて密閉した大砲の砲身を温めながら、球が転がる音に耳を傾けました。ある温度で音が変わることに気づき、液体と気体の区別が消える臨界点を初めて発見しました。
(2) 深海の熱水噴出孔
海底の熱水噴出孔からは、最高で約400°Cの熱い水が噴き出しています。深海の高い圧力の下で、この水の一部は超臨界状態に達することが知られています。
(3) 金星の熱い大気
金星の大気はほとんどが二酸化炭素で、表面温度は約462°C、圧力は地球の約90倍に達します。二酸化炭素の臨界点をはるかに超える環境のため、金星の表面を覆う大気は超臨界流体の状態にあります。
超臨界流体は、固体・液体・気体という見慣れた区分がいつもぴったり当てはまるわけではないことを示しています。温度と圧力という二つのつまみだけで物質の性質を変えられるという点は、よりクリーンな化学プロセスを探す道にも大きなヒントになっています。
境界の向こう側の状態を理解すること、それが物質を新しく扱う化学の第一歩です。