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学校に通えばお金がもらえる福祉、条件付き現金給付

貧しい家の子どもが学校ではなく畑や工場へ向かう姿は、長いあいだ多くの国の悩みの種でした。すぐに暮らしていくお金が足りないので子どもの手も借りなければならず、学べなかった子どもは大人になってもまた貧しくなりがちでした。貧困が親から子へそのまま受け継がれてしまうわけです。

この連鎖を断ち切るために登場したのが「条件付き現金給付(Conditional Cash Transfer)」です。貧しい世帯にお金を渡しますが、子どもをきちんと学校に通わせる、定期的に健康診断を受けるなど、決められた条件を守った場合にだけ渡す制度です。英語の頭文字をとってCCTと呼ばれることがよくあります。

本稿では、条件付き現金給付がどのような考えから出発したのか、メキシコとブラジルの代表的な事例、実際に現れた効果、そして条件を付けるやり方への批判まで順に見ていきます。


今日の支援と明日の機会、条件付き現金給付の仕組みと論点

学校への出席や健康管理などの条件と現金支援のつながり、生活費負担の軽減と長期的な機会の拡大という二つの目標を示した概念図。学校への参加が学習の向上を保証しないこと、サービスを利用しにくい世帯が排除されるおそれ、制度ごとの条件の違いを説明している。
条件付き現金給付の仕組みと設計上の注意点を単純化した概念図です。条件や運用方法は制度ごとに異なります。出典:World Bank, Conditional Cash Transfers: Reducing Present and Future Poverty;Akresh·de Walque·Kazianga, WPS7730。

なぜお金に条件を付けるのか?

朝日が差し込む田舎の家の戸口で、母親が制服姿の幼い娘に通学かばんを手渡し、木のテーブルに小さな布の財布が置かれている様子

条件付き現金給付は二つの目標を同時にねらいます。一つは今貧しい世帯の暮らしを助けること、もう一つは子どもたちに教育と健康を身につけさせ、次の世代の貧困を防ぐことです。

(1) 今日の貧困を和らげるお金
現金なら、世帯がいちばん急ぐところに直接使えます。米や服のように決まった物を配るより行政コストが少なく、受け取る人が自分で必要を判断できるという利点があります。

(2) 明日への投資、人的資本
学校への出席や予防接種といった条件は、子どもの知識と健康、つまり人的資本(Human Capital)を積み上げさせます。子どもを働きに出す代わりに学校に通わせると、その間に失う稼ぎを給付金が埋め合わせる仕組みです。

(3) 母親に渡す給付金
ほとんどの条件付き現金給付制度は、お金を母親に支給します。母親が受け取ったお金は子どもの食事や教育に使われる可能性が高いという判断からで、家庭内での女性の発言力を高める効果も期待されています。


メキシコとブラジルで始まった実験

緑の野原と山が見える中南米の田舎の土の道を、制服姿の子どもたちが小さな校舎へ一緒に歩いていく様子

条件付き現金給付が世界的に知られるようになったのは、1990年代後半の中南米でした。

(1) メキシコのプログレサ
メキシコは1997年、農村の貧しい世帯を対象にプログレサ(Progresa)を始めました。子どもが学校に通い、家族が保健所で健診を受けるとお金を渡し、中学校の課程では早く学校をやめがちな女子生徒に少し多くのお金を渡しました。この制度は2002年にオポルトゥニダデス(Oportunidades)と名前を変え、都市にまで広がりました。

(2) 効果を確かめる設計
プログレサは、一部の村で先に制度を始め、後から始める村と結果を比べるやり方で効果を検証しました。政策の成果を科学実験のように測った珍しい例であり、そのおかげでほかの国々が信頼してまねることができました。

(3) ブラジルのボルサ・ファミリア
ブラジルは学校への出席を条件としたボルサ・エスコーラ(Bolsa Escola)をもとに、2003年にボルサ・ファミリア(Bolsa Família)をつくりました。2026年時点の教育条件は、4~5歳児の出席率60%以上、基礎教育を終えていない6~17歳の子ども・青少年の出席率75%以上です。幼い子どもの予防接種も条件とし、毎月お金を渡して、1,000万世帯以上を支援する世界最大規模の制度として定着しました。


数字で見る効果と限界

明るい田舎の保健所で、看護師が壁の前に立つ笑顔の幼い子どもの身長を測り、母親がそばで見守っている様子

条件付き現金給付は、開発政策のなかでも最も綿密に評価された制度に数えられます。そのぶん成果も限界も比較的はっきりと表れました。

  • 学校への出席(School Attendance):特に中学校の課程で就学と出席が増え、女子生徒があまり通っていなかった国では男女の差が縮まりました。
  • 健康と栄養(Health and Nutrition):支援を受けた世帯は食べ物により多くのお金を使い、メキシコでは乳児死亡率が下がったという研究も出ました。
  • 学びの質(Quality of Learning):学校に長く通うようになったのとは違い、実際の学力や大人になってからの所得は大きく上がらなかったという分析もあります。

中南米では2011年までに18か国がこの制度を導入しました。国内総生産の約0.5%ほどと比較的少ないお金で済みながら、最も貧しい世帯に恩恵がよく届くと評価されました。


条件は本当に必要か?

人里離れた村の家の前で木の椅子に座った10代の少女が、乾いた丘の向こうへ遠くのびる誰もいない道を見つめている様子

条件付き現金給付が広まると、条件を付けること自体をめぐって論争が起こりました。

(1) 条件を守るのが難しい人々
学校や保健所があまりに遠い人里離れた村の人、体が悪くて条件を満たせない人、仕事を休んで申請に行くのが難しい女性は、かえって支援から漏れやすくなりました。最も助けが必要な人が押し出されてしまうという批判です。

(2) 条件なしで渡すお金との比較
アフリカのマラウイでは、学齢期の女子がいる世帯を対象に、条件を付けた支援と条件のない支援を並べて実験しました。条件を付けた側は就学と試験の成績がよりよかった一方、条件のない側は10代の妊娠と結婚がずっと少なくなりました。どちらのやり方が優れていると断定しにくい結果です。

(3) 権利としての福祉
最低限の生活を送ることは誰にでも与えられた権利なので、行動を条件にしてはならないという主張もあります。アメリカのニューヨーク市が2007年に始めた試行事業オポチュニティNYC–ファミリー・リワーズ(Opportunity NYC–Family Rewards)は、3年間運営されたのち、予定どおり2010年8月に終了しました。


条件付き現金給付は、お金という今日の助けに、教育と健康という明日の機会を結びつけた制度です。しかし条件が細かくなるほど、その敷居を越えられない人も出てきます。

支援の条件が誰かをふるい落とす壁ではなく、よりよい暮らしへ導く踏み石となるように設計すること、それが貧困の連鎖を断ち切る福祉の第一歩です。