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ピークと終わりで記憶される、ピーク・エンドの法則(Peak-End Rule)

旅行から帰ってその時間を思い返すと、不思議なことに、すべての日が均等に思い出されるわけではありません。夕焼けの前で息をのんだ瞬間や、最終日に空港へ向かう道での気分はとりわけ鮮明なのに、道に迷ったり列に並んだりした長い時間はぼんやりしています。そして人はたいてい、そのいくつかの場面だけで「いい旅だった」あるいは「いまいちだった」と評価を下します。

ピーク・エンドの法則とは、簡単に言えば「ある経験を思い出して評価するとき、全体の合計や平均ではなく、感情が最も強かった瞬間(ピーク)と最後の瞬間(エンド)を中心に判断する傾向」を意味します。楽しい経験でもつらい経験でも同じように現れ、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)と同僚たちの研究によって広く知られるようになりました。

この記事では、ピーク・エンドの法則を示した代表的な実験から、こうしたことが起こる理由、日常やサービスの現場での活用、そして覚えておきたい限界まで、順に見ていきます。


ピークと終わりで記憶される経験、ピーク・エンドの法則の仕組みと活用

時間に沿った感情の強さの概念線にピークと最後の区間を示し、一部の経験ではこれらの部分が後の全体的な回想評価に大きく影響しうることを説明した2パネルの図。すべての経験に同じように当てはまるわけではなく、持続時間やほかの瞬間も重要になりうる。
経験している最中の感じ方と、後で振り返ったときの評価は異なることがあります。ピークには楽しさだけでなく、不快さが強かった瞬間も含まれます。すべての経験に同じように当てはまる公式ではなく、持続時間やほかの瞬間も重要になりえます。根拠:Kahnemanほか(1993) · Fredrickson・Kahneman(1993) · Redelmeier・Kahneman(1996)。画像をクリックすると元のサイズで見られます。

冷水実験と大腸内視鏡の研究

実験室のテーブルの上で、冷たい水を張ったガラスの洗面器に片手を浸す人と、そばに置かれた温度計とストップウォッチ

ピーク・エンドの法則を初めてはっきりと示したのは、1993年にカーネマン、バーバラ・フレドリクソン(Barbara Fredrickson)らが発表した実験です。

(1) 冷たい水に手を浸す
参加者は一度目、摂氏14度の冷たい水に片手を60秒間浸しました。もう一度は反対の手を同じ水に60秒間浸したあと、水温を15度に少し上げた状態でさらに30秒間耐えました。二度目のほうが冷たい水の中にいる時間が長かったので、つらさの総量も大きかったはずです。ところが、どちらかをもう一度やるならどちらを選ぶかと尋ねると、大多数がより長い二度目の実験を選びました。最後の30秒が少しだけ楽だったおかげで、その経験がそれほど悪くなかったと記憶されたのです。

(2) 病院で確かめられた同じ現象
1996年、カーネマンと医師ドナルド・レデルマイヤー(Donald Redelmeier)は、大腸内視鏡などの検査を受ける患者に、検査中の痛みを1分ごとに点数で付けてもらいました。検査後に患者が思い出したつらさは、検査時間や痛みの総量ではなく、最も痛かった瞬間と最後の瞬間の痛みによってよく説明されました。その後の研究では、検査の終わりにあまり痛くない数分を付け加えた患者のほうが、検査全体をそれほど不快ではなかったと記憶し、次の検査にもより進んで応じる様子が見られました。

なぜピークと終わりだけが残るのか?

木のテーブルに広げられた旅行アルバムで、海の夕焼けと飛行機の窓からの景色の写真が数枚だけくっきりと見え、残りはぼやけている様子

私たちの記憶は、経験を最初から最後まで録画しておく装置ではありません。いくつかの代表的な場面を選んで保存しておき、あとでその場面から全体を推し量ります。

  • 感情が強い瞬間(Peak):喜びや苦痛が最も大きかった瞬間は、感情が大きく動いた分だけ記憶にしっかりと刻まれます。
  • 最後の瞬間(End):終わりに感じた気分は最も新しい記憶なので鮮明で、経験全体がどう締めくくられたかを示す結論のように受け止められます。
  • 持続時間の無視(Duration Neglect):経験がどれだけ長く続いたかは、後の評価にほとんど影響を与えません。

カーネマンはこれを二つの自己で説明しました。一瞬一瞬を実際に体験する「経験する自己」と、過ぎたことを振り返って物語にまとめる「記憶する自己」です。次に何をするかを選ぶのは主に記憶する自己なので、実際につらさが少なかったほうよりも、つらさが少なかったと記憶されているほうを選ぶことが起こります。

日常とサービスの中のピーク・エンドの法則

食事を終えたテーブルで、店員が伝票の横に小さなデザートとミントキャンディーをのせた皿を置く場面

経験をデザインする人たちは、この法則を意識的に活用しています。

(1) サービスと旅行
レストランが会計のときに小さなデザートやキャンディーを渡したり、遊園地が出口の近くにパレードやお土産店を配置したりするのも、最後の印象を良く残すための工夫と見ることができます。長い待ち行列が終わりに近づいたころ予想より早く進むと、待っている間ずっと退屈だったとしても、経験全体を比較的満足のいくものとして記憶するという研究もあります。

(2) 授業や運動、人間関係
授業や発表を一つの核心となる場面とすっきりした締めくくりで組み立てると、聞き手の心により長く残ります。運動を最もきつい動作ではなく軽い整理運動で終えると、翌日もまたやろうという気持ちになりやすくなります。けんかがあったとしても、会話を温かい言葉で締めくくれば、関係全体についての記憶がそれほど損なわれません。

ピーク・エンドの法則の限界と注意点

夕暮れどき、窓辺の机に座った人が色とりどりの付箋で作った時間割を見ながら、過去の出来事を振り返っている様子

ピーク・エンドの法則は強力ですが、あらゆる経験を説明できる万能の公式ではありません。

(1) いつも当てはまるわけではない
この法則は始まりと終わりがはっきりした経験でよく現れ、終わりがあいまいなまま続く物事や、非常に長い期間にわたる人生全体を評価するときには、違ったかたちで働くことがあります。最初の瞬間や感情が均等に続いた時間も評価に影響するという研究があり、ピークと終わり以外の情報が完全に消えるわけではありません。

(2) 記憶がだまされることもある
最後だけをもっともらしく飾って不快な過程を隠すかたちで使われると、相手を誤解させることがあります。反対に自分自身の判断でも、終わりが良かったというだけでつらかった過程を過小評価し、同じ失敗を繰り返すことがあります。重要な決断を前にしたときは、記憶に残った場面だけでなく、実際に歩んできた過程全体を落ち着いて振り返ってみるのがよいでしょう。


ピーク・エンドの法則は、私たちが経験を時間の合計ではなく、いくつかの鮮明な場面として記憶していることを示しています。これを知っていれば、ほかの人に良い経験を贈ることができ、自分の記憶が生み出す錯覚からも一歩引くことができます。

最も輝く瞬間と温かい締めくくりを心を込めて準備すること、それが長く記憶に残る経験への第一歩です。

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