家探しをしていると、いつも同じ悩みにぶつかります。今見た家はかなり気に入ったけれど、すぐに契約すべきか、それとももっと良い家が出てくるかもしれないので、もう少し見て回るべきか迷ってしまいます。急ぎすぎればもっと良いチャンスを逃し、時間をかけすぎれば、すでに見送った良い家は他の人の手に渡ってしまいます。
このように、いつ止めて選ぶべきかを数学で考えた代表的な問題が「秘書問題(Secretary Problem)」です。応募者を一人ずつ面接しながら、その場で採用するかどうかを決めなければならないとき、最も優れた人を選ぶ確率を最大にする方法を探る問題を意味します。その答えは一般に「37%ルール」と呼ばれます。
本記事では、秘書問題がどのようなルールで成り立っているかから、37%ルールが導かれる原理、この問題が知られるようになった歴史、そして現実に当てはめる際の注意点まで、順に見ていきます。
いつ止めて選ぶべきか、秘書問題
秘書問題のルール

秘書問題はいくつかの単純なルールから出発します。これらのルールがかみ合うことで、選ぶことが思ったよりはるかに難しくなります。
(1) 決まった数の応募者
採用枠は一つで、応募者が全部で何人いるかはあらかじめ分かっています。応募者を全員集めて比べれば、最も優れた人から最も劣る人まではっきりと順位を付けられると仮定します。
(2) ランダムな順番の面接
応募者はランダムな順番で一人ずつ面接を受けます。面接官は、これまでに会った人の中で今回の応募者が何番目に優れているかしか分からず、まだ会っていない人たちがどれほど優れているかは分かりません。
(3) 取り消せない決定
面接が終わったらすぐに採用か不採用かを決めなければならず、一度不採用にした人を再び呼ぶことはできません。目標はただ一つ、全体で最も優れたたった一人を採用することです。
37%ルールが導かれる原理

この問題の最善の戦略は驚くほど単純です。最初の一部は様子を見るだけにして、その後で決断を下すというやり方です。
(1) 最初は見て回るだけ
応募者全体のうち最初の約37%は、どれほど気に入っても採用せずに見送ります。この段階は、応募者のレベルがどの程度かという基準を作る時間です。見て回る期間が短すぎると基準が低くなって平凡な人に飛びついてしまい、長すぎると最も優れた人がすでに見送られている可能性が高くなります。
(2) 基準を超えた最初の人を選ぶ
その後は、それまでに見たすべての人より優れた応募者が初めて現れた瞬間に、その人を採用します。こうすると、最も優れた人を選ぶ確率は約37%になります。適当にランダムで選んだ場合、100人の中から最も優れた人を選ぶ確率がわずか1%であることを考えると、非常に高い確率です。
(3) 数eから生まれた37%
37%という数字は、数学定数eの逆数である1/e、約0.368から来ています。応募者が100人でも1億人でも、この比率はほとんど変わりません。応募者が10人なら、最初の3人を見送ってから選ぶときに確率が約40%で最も高くなります。ただし、基準を超える人が最後まで現れない可能性もあるという点で、この戦略も失敗のリスクを抱えています。
秘書問題が知られるまで

秘書問題は一人の論文から始まったというより、多くの人の口を経て広まっていった問題です。
- 婚約者問題(Fiancée Problem):1949年にアメリカの数学者メリル・フラッド(Merrill M. Flood)が講演で紹介した名前です。当時は論文として発表されませんでしたが、数学者たちの間で口コミによって広く知られるようになりました。
- グーゴル・ゲーム(Game of Googol):1960年2月にマーティン・ガードナー(Martin Gardner)が科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』の数学コラムで紹介した形です。裏返した紙片を一枚ずつめくり、最も大きな数で止める遊びで、この問題が初めて印刷された記録として知られています。
- ケプラーの花嫁探し(Kepler’s Marriage Problem):天文学者ヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler)は最初の妻を亡くした後、1611年から1613年までの2年間に11人の花嫁候補を検討しました。同じ問題ではありませんが、似た悩みの古い例としてよく紹介されます。
このほかにも結婚問題、スルタンの持参金問題など様々な名前で呼ばれてきました。1989年には統計学者トーマス・ファーガソン(Thomas S. Ferguson)が「誰が秘書問題を解いたのか?」という論文で、その複雑な歴史を整理しました。
現実に当てはめる際の注意点

37%ルールは魅力的ですが、実生活にそのまま当てはめる前に考えておくべき点があります。
(1) 全体の数が分からない場合
現実には、応募者や候補が全部で何人いるかをあらかじめ知るのは難しいものです。全体の数が分からないと、最も良い人を選べる確率はおおむね低くなり、こうした状況に合わせて変えた様々な変形問題が研究されてきました。
(2) 最高でなくても構わない場合
秘書問題では1位だけを成功とみなします。しかし実際には、かなり良い人を選べれば満足できる場合が多く、このように目標を変えると、より早く決めるほうが有利になります。
(3) 早く止めすぎる人々
似た状況を実験してみると、人々はおおむね最適なタイミングより早く探索をやめる傾向を示しました。候補を一つひとつ調べるのにかかる時間と手間が、こうした選択に影響すると解釈されています。高速道路でガソリンスタンドを選ぶときや航空券を探すときに、十分に比べずに急いで決めてしまうことも、似た例として挙げられます。
秘書問題は、もっと見て回るか、今選ぶかの間のバランスを数字で示してくれます。正解がいつも37%とは限らなくても、十分に見たうえで基準を作り、決断する姿勢は、様々な選択の場面で役に立ちます。
止めどきを知ること、それが後悔のない選択への第一歩です。