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時間が経ってから目覚める説得、スリーパー効果(Sleeper Effect)

ある日、ネットの掲示板で「このサプリを飲むと風邪をひきにくくなる」という書き込みを読んだとしましょう。書き込んだ人がそのサプリを販売する会社の社員だと知ると、信じる気持ちは一気に消えてしまいます。ところが数週間後、薬局の前を通りかかったとき、誰が言ったのかはぼんやりしていて、「風邪をひきにくくなるらしい」という言葉だけがはっきりと思い浮かびます。

このように、信じがたい情報源から出たメッセージが最初はあまり力を持たないのに、時間が経ってからかえって説得力が増す現象を「スリーパー効果(Sleeper Effect)」といいます。簡単に言えば「眠っていたメッセージが時間を経て目覚める現象」を意味し、マスコミュニケーション研究や説得研究で長く論争を呼んできた概念です。

本記事では、スリーパー効果が最初に発見された経緯から、その仕組み、効果が現れるための条件、そしてニュースや広告、ソーシャルメディアでの例と対処法まで、順に見ていきます。

スリーパー効果の概念図。最初はメッセージと信じがたい情報源が一緒に思い浮かぶため説得が抑えられるが、時間が経って両者の結びつきが弱まり、内容の影響が残ると説得力が増すことがある。いつも起こる現象ではなく、情報源を完全に忘れる必要もない。
スリーパー効果を説明する概念図であり、すべてのメッセージで起こる現象ではありません。出典:Kumkale & Albarracín (2004), The Sleeper Effect in Persuasion: A Meta-Analytic Review, Psychological Bulletin, 130(1), 143–172. https://doi.org/10.1037/0033-2909.130.1.143

時間が経ってから目覚める説得、スリーパー効果

兵士向けの宣伝映画から始まった発見

1940年代の軍の上映室で、軍服姿の若い兵士たちが木の椅子に並んで座り、映写機の光が当たるスクリーンを見つめる様子

スリーパー効果は、第二次世界大戦中のアメリカ陸軍で初めて観察されました。心理学者カール・ホヴランド(Carl Hovland)と同僚たちは、兵士たちに戦争の意義を伝える宣伝映画を見せ、その後兵士たちの考えがどのように変わるかを調べました。

研究チームは、映画を見た兵士と見ていない兵士の意見を、5日後と9週間後にそれぞれ比較しました。ふつう説得の効果は時間が経つほど弱まるものですが、一部の意見では、かえって9週間後に二つの集団の差がより大きく開いていました。研究チームはこの意外な結果に「スリーパー効果」という名前をつけ、1949年に『マス・コミュニケーションの実験(Experiments on Mass Communication)』としてまとめて発表しました。

1951年、ホヴランドとウォルター・ワイス(Walter Weiss)は、情報源の信頼性に焦点を当てた実験を続けました。同じ内容の文章を、ある集団には信頼できる専門家や学術誌が書いたものだと伝え、別の集団には信じがたい情報源が書いたものだと伝えました。直後には信頼できる情報源の文章のほうがはるかに説得力が高かったものの、4週間後には二つの集団の差はほとんどなくなっていました。信頼できる情報源の効果は弱まった一方で、信じがたい情報源の効果はかえって少し強まったためです。


メッセージと情報源が切り離される仕組み

リビングのソファに座った若い女性が、スマートフォンを手にしたまま、何かを思い出そうとするように物思いにふけって遠くを見つめる様子

スリーパー効果を理解するには、メッセージに付いている「割引手がかり(Discounting Cue)」を知る必要があります。割引手がかりとはメッセージを信じにくくさせる情報のことで、信頼しがたい情報源、広告であることの表示、「事実ではない可能性があります」といった警告文などがこれにあたります。

(1)忘却仮説
ホヴランドが最初に示した説明です。時間が経つと人々は割引手がかりを忘れ、メッセージの内容だけを覚えているようになるため、説得力がよみがえるというものです。しかしその後の実験で、人々は情報源をまだ覚えていたため、この説明は修正されました。

(2)分離仮説
情報源を完全に忘れるのではなく、情報源とメッセージの結びつきが緩むという説明です。後でそのテーマを思い浮かべるとき、メッセージの内容は簡単に思い出せても、それがどこから来たのかは一緒に思い出されないのです。

(3)差異減衰仮説
アンソニー・プラトカニス(Anthony Pratkanis)と同僚たちが1988年に示した説明です。メッセージと割引手がかりを互いに反対方向に働く二つの情報とみなし、割引手がかりの力がメッセージよりも早く弱まるため、時間が経つとメッセージの力だけが残ると考えました。


スリーパー効果が現れる条件

大学の研究室の長いテーブルにアンケート用紙が広げられ、壁掛け時計のそばで研究者が用紙に目を通している様子

スリーパー効果は、再現が非常に難しい現象としても有名です。1970年代には実験でなかなか現れなかったため、「そろそろスリーパー効果を葬るべきではないか」という論文まで出ました。これに対してトーマス・クック(Thomas Cook)と同僚たちは、効果が現れるにはいくつかの条件がすべてそろう必要があると反論しました。

  • 強いメッセージ(Persuasive Message):メッセージそのものが最初から十分に説得力を持っていなければなりません。
  • 強い割引手がかり(Strong Discounting Cue):割引手がかりが、最初の説得効果をしっかり抑え込めるほど強くなければなりません。
  • 十分な時間(Time Delay):最初の測定と後の測定の間に、十分な時間が経っていなければなりません。
  • 残っているメッセージ(Lasting Message):後で測定するときにも、メッセージの内容が記憶の中で影響力を保っていなければなりません。

プラトカニスの研究チームは何度もの実験を通じて、割引手がかりがメッセージより先に示されるときよりも後に示されるときのほうが、スリーパー効果がずっと現れやすいことも確かめました。2004年のG・タルジャン・クムカレ(G. Tarcan Kumkale)とドロレス・アルバラシン(Dolores Albarracín)によるメタ分析も、割引手がかりがメッセージの後に来るとき、そして人々がメッセージをじっくり考えながら受け取ったときに効果がより大きいと報告しています。


ニュースや広告に見るスリーパー効果

朝の路線バスの中で、中年の男性がスマートフォンでニュース画面をスクロールしながら読み、周りの乗客はぼやけて見える様子

スリーパー効果は実験室の外でも大きな意味を持ちます。情報源は忘れられ、内容だけが残ることが日常で絶えず起きているからです。

  • 政治広告(Political Advertising):対立候補が作った中傷広告は最初は疑われますが、時間が経つと誰が作った広告なのかはぼやけ、中傷の内容だけが残って判断に影響を与えることがあります。
  • 誤情報(Misinformation):「確認されていない噂」というラベルが付いた話も、時間が経つとラベルは忘れられ、噂の内容だけが事実のように記憶される恐れがあります。
  • 広告とタイアップ(Sponsored Content):広告であることが表示されたコンテンツでも、後になると広告だったという事実より、製品に対する良い印象のほうが長く残ることがあります。

そのため情報を受け取る側は、ある考えが浮かんだときに「この話はどこで聞いたんだっけ?」と情報源も一緒に思い出す習慣が必要です。反論したり訂正したりする側も、警告を一度付けて終わりにするより、訂正の内容をはっきりと繰り返し伝えることが役に立ちます。


スリーパー効果は、私たちの記憶が内容と情報源を別々に保管していることを示しています。最初は疑っていた言葉も、時間が経つといつの間にか自分の考えのように定着してしまうことがあるのです。

情報があふれる時代だからこそ、何を聞いたかと同じくらい、誰から聞いたかを覚えておくことが大切です。浮かんだ考えの出どころをもう一度たどってみること、それが振り回されない判断への第一歩です。