走っている車の中からスマートフォンで窓の外を撮ると、まっすぐ立っていた電柱が斜めに傾いて見えることがあります。回っている扇風機やヘリコプターの羽根を撮ったら、羽根がバナナのように曲がったり、本体から外れたように見えたりすることもあります。カメラが故障したのではなく、画面を記録する方式によって起こる、ごく自然な現象です。
この現象を指す言葉が「ローリングシャッター(Rolling Shutter)」です。ローリングシャッターとは、簡単に言えば「ひとつの場面を一瞬で丸ごと撮るのではなく、上から下へ1行ずつ素早くなぞりながら記録する方式」を意味します。この方式のせいで、速く動く物体や一瞬の光がおかしく写ることをローリングシャッター効果(ローリングシャッター現象)と呼びます。
この記事では、ローリングシャッターが働く仕組みから、画面に現れる代表的なゆがみ、それを避ける方法、さらには表現として活用される例まで、順に見ていきます。
1行ずつ記録される画面、ローリングシャッターの仕組みと活用
ローリングシャッターはどのように働くのか?

デジタルカメラのイメージセンサーは、無数の小さな画素が碁盤の目のように集まって光を受け取る板です。これらの画素の情報をどの順番で読み出すかによって、シャッター方式が分かれます。
(1)上から下へなぞる記録
スマートフォンや多くのデジタルカメラに使われるCMOSセンサーは、ほとんどが一番上の行から一番下の行まで順番に情報を読み出します。1行を読む時間はごく短いものの、一番上の行と一番下の行の間には明らかな時間差が生まれます。この時間差は通常、数百分の1秒から数十分の1秒ほどと短いため、ゆっくり動く場面ではほとんど感じられません。ところが再生するときには、これらすべての行がひとつの瞬間の場面であるかのように一度に表示されるため、その間に動いた物体は行ごとに違う位置に写り、形がゆがみます。
(2)一度に撮るグローバルシャッター
反対に、すべての画素が同じ瞬間に光を受け取る方式をグローバルシャッター(Global Shutter)といいます。かつてのCCDセンサーを使ったカメラはグローバルシャッターであることが多く、このようなゆがみはほとんどありませんでした。ローリングシャッターは構造が単純で安価なうえ、光を受け取る時間を十分に使えるため、今日広く使われています。グローバルシャッターは長い間、産業用や一部の専門機器に主に使われてきましたが、2023年にソニーがグローバルシャッターセンサーを搭載したフルサイズのミラーレスカメラを発売したことで、一般の写真愛好家にもぐっと身近になりました。

画面に現れる4つのゆがみ

ローリングシャッター効果は、何がどれだけ速く動くかによって、さまざまな形で現れます。
- 傾き(Skew):カメラや物体が横に速く動くと、縦にまっすぐな柱や建物が片側に斜めに傾いて写ります。
- こんにゃく現象(ジェロ効果、Jello Effect):車両やドローンのように振動が激しい場所で撮ると、画面全体がゼリーのように揺れます。望遠レンズで手持ち撮影するときにもよく起こります。
- 空間エイリアシング(Spatial Aliasing):プロペラのようにとても速く回る物体を撮ると、羽根が曲がったり途切れたりして、本体から離れたように見えます。
- 部分露光(Partial Exposure):カメラのフラッシュや稲妻のようにごく短く光る光が入ると、画面の上側の一部だけが明るく、残りは暗く写ります。
蛍光灯やLED照明の下で画面に横じまが流れるのも、照明が速く点滅する瞬間が行ごとに違って記録されるためです。
わかりやすい例で見るローリングシャッター

ローリングシャッターは、デジタル時代になって初めて生まれた現象ではありません。
(1)前に傾いたレーシングカー
フランスの写真家ジャック・アンリ・ラルティーグ(Jacques Henri Lartigue)が1912年に撮影したとされる自動車レースの写真では、車輪が卵のように前へ傾いています。当時のカメラのシャッター幕が上下に動いてフィルムを順に露光している間に、自動車が前へ走り抜けたためです。一方、カメラを車に合わせて振ったため、道ばたの見物人や電柱は反対方向に傾いて見えます。機械式シャッターでも同じ原理が働いていたわけです。
(2)スマートフォンの中で曲がった羽根
飛行機の窓際からプロペラを撮ったり、ギターの弦をはじく様子をスマートフォンで近くから撮ったりすると、弦が波のように揺れる映像になります。目で見る姿とはまったく違いますが、これは故障でも特殊効果でもありません。センサーが上から下へ記録している間、羽根や弦が動き続けていたという事実をそのまま見せているのです。
ローリングシャッターへの対処法

映像をつくる人にとって、ローリングシャッターは避けるべき問題であると同時に、理解して扱うべき特性でもあります。
(1)撮影の段階で減らす
カメラを素早く振るパンを避け、ジンバルや三脚で揺れを抑えると、ゆがみは目に見えて減ります。センサーが1画面を読み出す速度が速いほどゆがみは少なくなるため、高級シネマカメラは読み出し速度を上げてこの問題を軽減しています。スポーツや産業の現場、視覚効果の撮影では、はじめからグローバルシャッターのカメラを使うこともあります。
(2)編集の段階で直す
編集ソフトのローリングシャッター補正機能は、行ごとに生じた時間差を計算して、傾いた画面をまっすぐに直します。ただし、あまりにひどいゆがみは完全に元に戻すのが難しいものです。一方で、一部のアーティストやミュージックビデオの監督は、曲がる羽根や揺れる画面をあえて生かし、独特の雰囲気をつくるのに使うこともあります。
ローリングシャッターは、カメラが時間を1行ずつ分けて記録しているという事実を目に見える形で示す現象です。仕組みを知っていれば、奇妙な映像に出会っても慌てずにすみ、撮影や編集であらかじめ備えたり、逆に演出として活用したりすることもできます。
1枚の画面の中にも異なる瞬間が重なっていると覚えておくこと、それが動きを正確に捉える撮影の第一歩です。