本文へ移動
雑学書庫好奇心が集まる場所
日本語

晴れた空に響く雷鳴、ソニックブーム(Sonic Boom)

晴れた日に空軍基地の近くで、突然「ドン、ドン」と2回大きな音が鳴り響き、窓ががたがたと揺れることがあります。空には雲ひとつないのに雷のような音が聞こえるのですから、驚くのも無理はありません。この音の正体は爆発ではなく、音より速く飛んだ飛行機が残した痕跡です。

物体が音の速さより速く空気中を進むときに生じる衝撃波が、地上に届いて出す大きな音を「ソニックブーム(Sonic Boom)」と呼びます。日本語では「衝撃波音」とも呼ばれます。

本記事では、ソニックブームが生じる仕組みと身近で見られる小さなソニックブーム、そして超音速旅客機が姿を消した理由とそれを抑えようとする研究まで、順に見ていきます。


音の壁を越える瞬間、ソニックブームの仕組みと影響

右へ超音速で飛ぶ飛行機の後ろに、衝撃波が円錐形に広がる概念図。地上の観測者は、衝撃波が自分の位置を通過するときにソニックブームを聞く。白い水蒸気の雲はソニックブームそのものではなく、図は実際の比率ではない。
超音速飛行とソニックブームの概念図です。衝撃波と地面に届く過程を単純化しており、実際の角度や比率を示すものではありません。出典:NASA, Sonic Booms; NASA SP-514, Patterns in the Sky.

ソニックブームはどのように生じるのか?

晴れた日に海の上を低く速く飛ぶ灰色の戦闘機の胴体のまわりを、白い円錐形の水蒸気の雲が包んでいる様子

音は、空気の圧力の変化が波紋のように広がっていく波動です。気温20度の空気中では、音は1秒間に約343メートル進みます。この速さを基準に物体の速さを表した値がマッハ(Mach)数で、音と同じ速さがマッハ1です。

(1)前方に押し寄せて積み重なる圧力波
飛行機は飛びながら前後に絶えず圧力波をつくります。船が水面を進むとき、船首と船尾に波が立つのと似ています。飛行機が音より遅ければ圧力波は先に前方へ広がっていきますが、速さが音速に近づくほど波は逃げ切れず、飛行機の前に幾重にも積み重なります。

(2)一つにまとまった衝撃波
飛行機が音より速くなると、積み重なった圧力波が一つにまとまり、圧力が急に跳ね上がる衝撃波になります。この衝撃波は飛行機を頂点とする円錐形に後方へ広がり、これをマッハコーン(Mach Cone)と呼びます。飛行機が速いほど、円錐は鋭くとがります。

(3)2回鳴る理由
飛行機の先端では空気の圧力が急に高くなり、後尾側では通常より低くなったあと、通り過ぎるとまた元に戻ります。この圧力変化がアルファベットのNに似ているため、N波(N-wave)と呼ばれます。圧力が急に変わる瞬間が2回あるため、地上では「ドン、ドン」という二重の爆音が聞こえます。


音の壁を越えるとき、1回だけ鳴るのか?

田舎の村の近くの草地で、人々が晴れた空高くに浮かぶ小さな飛行機を見上げ、一人が耳をふさいでいる様子

飛行機が音速を超えた瞬間にただ一度だけ「ドン」と鳴ると思われがちですが、これは誤解です。

(1)ずっとついてくる音
ソニックブームは、飛行機が超音速で飛んでいる間ずっと生じています。円錐形の衝撃波が飛行機とともに動いて地上を掃くように通り過ぎ、その円錐が通過する場所にいる人はそれぞれ一度ずつ爆音を聞くことになります。飛行経路の下に長く帯状に広がるこの区域を、ブームカーペット(Boom Carpet)と呼びます。

(2)操縦席は静か
衝撃波は飛行機の後方へ広がるため、当の飛行機に乗っている人には爆音が聞こえません。コンコルド旅客機のパイロットたちも、計器で圧力の変化を確かめるだけで音は聞こえなかったと語っています。

(3)高度と天候で変わる大きさ
高いところを飛ぶほど衝撃波は広がりながら弱まり、地上に届く圧力は小さくなります。その代わり、爆音が聞こえる区域はより広くなります。飛行機が通り過ぎてから数秒から1分ほどたってようやく音が地上に届くこともあり、気温や風、地表の状態によっても聞こえ方が変わります。


身近にある小さなソニックブーム

日差しの差し込む牧場で、カウボーイが長い革の鞭を振るい、細い先端が空中でしなる瞬間と、背後の木の柵

ソニックブームは戦闘機だけの話ではありません。規模は小さいものの、日常でも同じ仕組みの音を聞くことができます。

  • 鞭の音(Whip Crack):鞭を強く振ると、細くなっていく先端が音より速く動き、「パシッ」という小さなソニックブームを生みます。
  • タオルはたき(Towel Snap):丸めたタオルを強くはじいたときに出る鋭い音も、小さなソニックブームの一例です。
  • 超音速の弾丸(Supersonic Bullet):音より速い弾丸が頭上を通り過ぎるときに聞こえる鋭い破裂音も、衝撃波がつくる音です。

鞭が音より速くなれるのは、持ち手側の動きが、しだいに細く軽くなる先端へと伝わるにつれて、速さが大きく増すためです。


空を静かに飛ぶための挑戦

日の出ごろの砂漠の滑走路にたたずむ、機首がとても長くとがった白と青の実験用超音速機

1947年10月14日、アメリカのチャック・イェーガー(Chuck Yeager)がベルX-1を操縦し、水平飛行で初めて音の壁を越えて以来、超音速飛行は急速に発展しました。しかし、ソニックブームは大きな障害となりました。

(1)陸地上空での超音速飛行の禁止
1964年、アメリカのオクラホマシティでは6か月にわたって1日8回ずつソニックブームを起こす実験が行われ、1万5千件にのぼる苦情が殺到しました。眠りを妨げ、窓ガラスを揺らす騒音のため、アメリカをはじめ多くの国が陸地の上空で民間航空機が超音速で飛ぶことを禁じ、コンコルドも主に海の上でしか超音速で飛べませんでした。

(2)爆音をやわらげる設計
科学者たちは、機体の形を変えると衝撃波が一つにまとまらずに分散し、音がやわらかくなることに注目しました。アメリカ航空宇宙局(NASA)はこの原理を生かして、機首がとても長くとがった実験機X-59をつくり、2025年10月に初飛行に成功しました。目標は、爆音を車のドアを閉める程度の音にまで抑えることです。

(3)地上に届かせない飛び方
上空は地上より気温が低いため、音は上向きに曲がります。これを利用し、音よりわずかに速く飛ぶことで、衝撃波が地上に届く前に上へ曲がって戻っていくようにするマッハカットオフ(Mach Cutoff)という方法も研究されています。


ソニックブームは、音より速く進む物体が空気に残す巨大な足跡のようなものです。空を切り裂く轟音の中には、波が積み重なり合わさるという、単純でありながら驚くべき物理法則が隠れています。

速く飛びながらも地上の人々を驚かせない方法を見つけること、それこそが超音速旅客機復活への第一歩です。