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方位磁針が南を指していた時代、地磁気逆転(Geomagnetic Reversal)

方位磁針の針は、いつも北を指します。登山者も昔の船乗りも、この事実を信じて道を探してきました。ところが、地球の長い歴史をさかのぼってみると、方位磁針の針が今とは正反対の南を指していたはずの時期が何度もありました。地球の磁石がまるごとひっくり返る、この驚くべき現象こそが「地磁気逆転(Geomagnetic Reversal)」です。

地磁気逆転とは、簡単に言えば「地球の磁場の北極と南極が互いに入れ替わること」を意味します。ここでいう北極と南極は、地図上の地理的な極ではなく、磁場の向きを指します。大地が動いたり地球が逆向きに回ったりするのではなく、地球の内部で生まれる磁場の向きだけが入れ替わるのです。

この記事では、地球の磁場がどのように生まれるのかから、科学者が逆転の痕跡を見つけた経緯、逆転が起きている間に起こること、そして今の地球の磁場の状態までを順に見ていきます。

地磁気逆転の前後でも地球の自転と地理上の南北は変わらないが、方位磁針の北を指す針の向きは反対になる様子。液体の外核で導電性の物質が動くことで磁場が生まれ、逆転の周期は不規則である。
地磁気逆転の概念図。赤い針先は北を探す方位磁針の先端で、逆転によって地球の自転の向きが変わることはありません。大きさや時間は実際の比率ではありません。資料:USGS · NASA。

ひっくり返る地球の磁石の秘密

地球の磁場はどのように生まれるのか?

地球の一部を切り取った断面で、オレンジ色に光りながら渦を巻く液体の外核と明るい固体の内核が見え、地球の周りを南北に結ぶ磁力線がうっすらと曲がっている様子

地球の奥深くには、鉄とニッケルでできた核があります。中心の内核は硬い固体ですが、その外側を包む外核は熱く溶けた液体金属です。この液体金属が絶えず動くことで、地球の磁場が生まれます。

(1) ジオダイナモ(Geodynamo)
溶けた鉄が熱によって上下に流れる対流を起こし、地球の自転によってその流れが渦を巻きます。電気を通す金属がこのように動くと電流が流れ、その電流がまた磁場を作ります。この過程がひとりでに続いていく仕組みをジオダイナモ(地球ダイナモ)と呼びます。

(2) 傾いた棒磁石
地球の磁場は、よく地球の真ん中に置かれた巨大な棒磁石にたとえられます。この磁石は自転軸から約11度傾いているため、方位磁針が指す磁北と地図上の北極は少しずれています。

(3) 常に変わる磁場
外核の流れは一瞬たりとも止まらないため、磁場の強さと向きも少しずつ変わり続けます。地磁気逆転は、こうした変化が極端にまで進んだケースだと考えられます。


岩石と海底に刻まれた逆転の痕跡

穏やかな海の上を進む調査船が後ろに磁力計のケーブルを引いていき、海底の海嶺の両側に濃い玄武岩と淡い玄武岩の帯が左右対称に交互に並んでいる様子

科学者たちは、人類が生まれるはるか前に起きた逆転を、岩石の中の小さな磁石の粒から突き止めました。溶岩が冷えて固まるとき、その中の鉄を含む鉱物は、そのときの磁場の向きにそろったまま固まってしまいます。

(1) 逆向きに磁化した火山岩
20世紀初め、フランスの地球物理学者ベルナール・ブリュンヌ(Bernard Brunhes)は、一部の火山岩が今の磁場とは逆向きに磁化していることに初めて気づきました。1920年代後半には、日本の松山基範(Motonori Matuyama)が、逆向きに磁化した岩石がすべて古い地層からしか見つからないことを明らかにしました。

(2) 海底のしま模様
1950~60年代、調査船が海底の磁場を測って地図にしてみると、海嶺に沿って正の向きと逆の向きが交互に現れるしま模様が浮かび上がりました。1963年、フレデリック・ヴァイン(Frederick Vine)とドラモンド・マシューズ(Drummond Matthews)は、これを海嶺で新しくできた海洋地殻が当時の磁場の向きを記録したまま両側に広がった結果だと説明しました。この解釈は、海洋底拡大説とプレートテクトニクスを裏づける決定的な証拠となりました。


逆転はどれくらいの頻度で、どれくらいの時間をかけて起きるのか?

静かな川沿いの谷に、灰色・ベージュ・茶色の地層が横に幾重にも重なった高い崖がそびえ、中ほどに淡い火山灰の帯が見え、手前の岩の上に地質ハンマーと小さな方位磁針が置かれている様子

地磁気逆転は、決まった周期なく不規則に起こります。過去8,300万年の間に少なくとも183回起きているので、平均すると数十万年に一度の割合ですが、数千万年もの間一度もひっくり返らなかった時期もありました。

  • 最後の逆転(Brunhes–Matuyama Reversal):約78万年前に起き、二人の科学者の名前をとってブリュンヌ-松山逆転と呼ばれます。日本の千葉県の地層にこの逆転がはっきりと残っていることから、2020年、この地層を基準とする地質時代に「チバニアン(Chibanian、千葉時代)」という名前が付けられました。
  • 逆転にかかる時間(Transition Duration):多くは1,000年から10,000年ほどと推定されています。最後の逆転には2万2千年ほどかかったという研究もあります。
  • 短い逸脱(Geomagnetic Excursion):約4万1千年前のラシャンプ・エクスカーション(Laschamp Excursion)のように、磁場が一時的に大きく揺らいだあと元の向きに戻った出来事もあります。

逆転が起きている間も、磁場が完全に消えるわけではありません。ただし強さが大きく弱まり、あちこちに小さな極が入り乱れて現れたのち、時間をかけて新しい向きに落ち着きます。


今、地球の磁場はひっくり返りつつあるのか?

太陽電池パネルと細長いブームを備えた小さな科学衛星が地球の上空を回り、眼下にアフリカと南アメリカの間の南大西洋が見下ろせ、地平線近くでオーロラがかすかに光っている様子

欧州宇宙機関(ESA)のスウォーム(Swarm)衛星の観測によると、地球の磁場は過去200年の間に世界平均で約9%弱まりました。そのため、もうすぐ逆転が始まるのではないかという話がたびたび持ち上がります。

(1) 南大西洋異常帯(South Atlantic Anomaly)
アフリカと南アメリカの間の上空には、磁場がとりわけ弱い広い地域があります。ここを通過する人工衛星は、宇宙から飛んでくる粒子に多くさらされ、故障しやすくなります。

(2) まだ心配する段階ではない
科学者たちは、今の弱まりは自然な変動の範囲内にあると見ています。現在の磁場はむしろ長期間の平均より強いほうなので、すぐに逆転が始まると考える根拠は乏しいのです。

(3) 私たちの暮らしとの関係
地表にいる人にはこれといった影響はありませんが、磁場の変化は衛星の運用や航法装置に影響を与えます。そのため、アメリカとイギリスの機関が共同で作る世界磁場モデル(World Magnetic Model)を5年ごとに更新し、スマートフォンの地図や飛行機、船の道案内に反映しています。


地磁気逆転は、私たちの足元数千キロメートルの深さで動く液体金属が、地球全体の姿にまで影響を与えることを示しています。岩石と海底に残された小さな磁石の記録のおかげで、科学者たちは大陸が動いてきた歴史や地層の年代まで読み取れるようになりました。

見慣れた方位磁針の針一本にも地球の長い歴史が刻まれていると知ること、それが私たちの惑星を理解する地球科学の第一歩です。